ピアスの意味 


「ねぇリオンさん」

今日は剣の稽古も適当な時間に切り上げて、お茶でも一緒に飲もうか、と極普通な流れで街のカフェに行ってとりとめのない話をしていた時、カイルが両肘つきながら僕を凝視した。

「何だ。人の顔をじっと見て」

不躾な奴だな、と声にはせずティーカップを持ってスプーンでミルクティーをかき混ぜた。

「どうでもいいかもしれないけどさ、何でピアス片っぽないのかなぁ〜って」

何で?と首を傾げてみせるカイルにリオンの目が少しばかり泳いだ。
言い淀む際に見せる口を手で覆い隠している師の姿に、カイルはもしかしたら聞いてはいけない込み入った事情があるのか考えたが、気になるものは気になってしまう。とりあえず黙っておく。

「勇気を以て剣を振るい、誇りを胸に抱かん」

リオンが真っ直ぐカイルを見て答えた。

「へ?」

しかし当然の事ながら、カイルには全く伝わっていないのはリオンの予想の範囲内だった。

「…なんか呪文みたいだね。…あ、そうか!リオンさんのピアスは魔力があるんだ!」
「はぁ?」

うわ〜いいなーだのオレも欲しいだの騒ぐカイルを呆れ目で見て、頭を抱えそうになるのは何も今始まったばかりではないと、呆れるのも馬鹿馬鹿しいのでリオンはとりあえず笑みを浮かべた。苦い意味の。

「まぁ…これは僕が剣士として、それと騎士団長としての誓いの証みたいなものだ」
「…誓いの証??」

そう言えばカイルは、面白いものを見つけた時や意志を宿した時の、あの好奇心に満ちた輝いた瞳になって両手と背中をピシーっと正して聞き入るカイルに、ほんの少しリオンは気を良くした。

「男が左耳に片方のピアスをつけるのは、『勇気と誇り』という意味があるからだ」
「へぇ〜…片っぽピアスってそんな意味があったんだ…なんか、かっこいー!」

更に瞳をキラキラとさせて笑うカイルをリオンは鼻で笑って目を細めた。

「お前の絶望的に少ない知識の一つに加えておけ」
「ねっ、ねぇ!オレも片っぽピアス、つけたいっ!」
「……そう言うと思った」

カイルの火をつけてしまったのは僕だ。
伝票を持ってリオンは立ち上がった。

「歩いてすぐにジュエリーショップがある。行くぞ」
「ーうん!」

カイルの笑顔を背中に感じながら、リオンは微かに口角を上げていた。



2013.4.9



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