カシャーン♪
間抜けな音が聞こえ、リビングを見るとスマホをいろんな角度に動かしているカイルに、リオンは首を傾げた。
「夕飯…なうっ、と」
「…何してるんだ」
鼻歌混じりで楽しげにキーボードを打ち込むカイルの後ろから、今夜の夕食である自分のチーズリゾットを片手に覗き込むと、顔文字やら『w』乱舞に眉をしかめれば、カイルが得意気に答える。
「ツイッターに今日のごはんぅpってるんだぁ」
………うぷ?
「うぷとはどういう意味だ」
「えっと……たしか、動画とか写真をアップなんちゃら…ま、まぁ“アップ”を略した感じ…かな?」
カイルに説明を求めたのが間違いだったようだな、とリオンは椅子に座って悟る。
「リオンさんでも分からないことってあるんだねっ」
「!」
当人が悪気もなく言っているのが分かるからこそタチが悪いのだ。
しかし、馬鹿に文明機器を与えるのは大変よろしくないというのが、非常に理解出来た。
最近はこんな風に僕が知らないと分かると、どや顔してくるのが多くなってきた。
本当に可愛くないガキだ。
「とりあえず、だ」
「…?」
ひょいっと、スマホを取り上げポケットに隠し、驚くカイルにスプーンの先を向けた。
「いいか、僕と話す時は意味不明な言語は使用禁止だ」
「なんで?」
「分からないからだ!」
それ以外に何がある。
ふん、と鼻を鳴らしてリオンはリゾットを頬張った。
「…ところで、何故夕食なんか何処の誰かも分からん奴に見せる必要がある?」
知ったところで自分には利益のない情報だ。
そこに何の意味があるのか、到底理解不能という顔をするリオンを見て、カイルは少し目を泳がせてへにゃあと笑った。
「リオンさんの料理ってフォロワーに人気なんだよ…だから、なんかね、皆に見せたくって」
「…見せてどうする」
「かっこいいリオンさんを皆に自慢したかっただけ!」
恥ずかしいのを隠すようにリゾットにばくつくカイルを余所に、自身の顔がにやけてしまうのが分かる。
こんな間抜けな顔は見せられない。
「そ、そうか。まぁ…好きに呟け…?」
「…っうん」
我ながら何を言ってるんだか分からないが、とにかく赤くなってるであろう顔を冷ますため、リオンは一気に水を飲んだ。
2013.3.8
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