池袋の中心から離れた閑静な住宅街にリオンの家がある。
家…というよりは普通の一軒家とは格の違う和洋折衷なレトロモダンの趣ある邸宅だ。

石段を上がり門をくぐって大きなドアを開けば、だだっ広い玄関。ホントいつ来てもすごい。

「手洗いうがいはしっかりしろよ」
「はーい、分かってるって」

忙しなく靴を脱ぎ散らかし足音騒がしく、洗面所に駆けていく背中を呆れた目で眺めて靴を丁寧に揃え、リオンはスタンとルーティの教育は一体どうなってるのか心配になった。

「あ、父さん!今リオンさん家着いたよ」

リビングから聞こえるバカでかい声に肩を落としたものの、こんなうるさいのもいいかもしれない、と密かに胸中で思った。


夜が更け夕食はカイルの好きなマーボーカレーを振る舞い、一緒にテレビを見て気づけば時間はあっという間に過ぎていく。

「リオンさんと一緒に寝たい」
「寝相が悪いから嫌だ」

カイルには隣で寝ろと言って、自分もさぁ寝ましょうと部屋に入ろうとしたところを、行かせまいとドアの前を通せんぼする中身幼稚園児に、どうせ聞かないのは目に見えていたがきっぱりお断りするも、そこから退こうとしない。

これには流石に仕事を明日に控える僕には迷惑でしかない。
そっちは春休み中の学生だから気楽かもしれないが、僕は違う。

「これから高校生なのに1人で寝れないのか」

甘えるんじゃない、と軽めに語気を強めれば口を尖らせるだけで、頑として道をあけない我が儘っぷり。

だからといって睡眠時間を割くのは勘弁してくれと、リオンは脇腹を掴んでひょいっと容易くカイルを持ち上げた。

「仕方ないから今日だけ寝てやる」
「やった!」

ぎゅう。
本当にお前は高校生になるのか?
5歳くらいの頃と全く変わってない甘えん坊ぶりに片眉をしかめた。

「今日だけだからな?」
「もー、分かってるよ」

しかし、まぁ自分も大概甘過ぎる。
教育し直そうとか考えていた筈がもうこれだ。完全にカイルのペースに飲み込まれてるな、と。

「うひゃあ!ベッドふかふか〜」
「はしゃぐな!」

これは寝る為の物で、飛ぶ為のトランポリンなんかじゃない。

「早くパジャマに着替えて寝ろ」

今は着ていないお古をクローゼットから出し、ベッドに放り投げて自分も就寝の身支度をすると控え目なカイルの声が動きを止めた。

「……やっぱりリオンさんって、大きいね…」

いいなぁ…オレもこんなになりたい、という純粋な羨望の眼差しで呟くカイルとは逆でリオンは動揺を隠せないでいた。

細い首と腰に足、自分よりも小柄な体が大きめなサイズのパジャマを着ているギャップというのか、酷く落ち着かない。何だこれ。

「……お前もいずれ成長する」
「じゃあ、リオンさん追い越してあげる!」
「やめろ」

年下に抜かされるなんて屈辱でしかない。でも成長期の男子を侮ってはいけないから……牛乳でも飲んでおくか。

「…オレね、今日すっごい楽しみだったんだ」

薄布団を几帳面に整えながらリオンはぽつりぽつりと話し始めたカイルの独り言のようなものを、黙って聞いてベッドに沈み込んだ。

何が、と先を促せばカイルは屈託のない柔らかい笑みを、惜しげもなく向けてきた。

「リオンさんと一緒に暮らすのがだよ!」

それから何にもなかったかのようにリオンを差し置いて、深い眠りにつく少年を半ば呆れ睨みつけた。

今のは狡いだろう、と。


同棲初日、早くもギブアップしそうなリオンの複雑な心中は溜息によって変えられた。




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修正が必要そうな同棲の始まり話。
というか早く甘々肌色注意な現代リオカイが書きたい…



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