「――そういう事か」


するんじゃなかったと、後悔してももう遅いのだ。

見てしまったものは変えようのない真実で。

あああ…―心の底から重い溜息が出てきて、どうしようもない胸の痛さに眉をしかめた。

視線の先には自分の大切な甥―カイルが、ヘイズルで出会ったロイド・アーヴィングと何やら楽しそうに話し込む姿に、昼前の何気ないやり取りを思い出す。

『…ごめんねリオンさん。今日は約束があって…』

あぁ、そうか、それなら別にいいとリオンは僅かに微笑んで答えた。

そんな事1ミリも思ってないが。

ここ最近修行に誘っても返ってくるのは「約束があるから」、聞き飽きた馬鹿の一つ覚えの答えに腹が立って、半ば自棄でカイルの後をつけてみれば、お友達とお楽しみやってるんじゃお話しにもならない。

…と、考えれば考えるだけで腹は煮えくり返るどころか、沸き立つばかり。健康衛生的にも悪いから、リオンはなりふり構ってやる必要もないと、2人に歩んだ。

「カイル…」

呼んでみても話に夢中になってるらしく、全然気づかない。何だそれ。
いつもなら呼んだら満面の笑みで飼い主に懐く犬よろしく、リオンに尻尾振ってやってくるのに。

……不愉快だ。
「カイル」そう耳元でハッキリと、後ろから抱き締めてやれば驚いてほんのり顔を赤くするカイルが見れて、リオンは何だか胸の重みが軽やかになるのを感じる。
思わず口元がにやけてしまうのを寸前で堪えた。

「り、リオンさん…どうしたの!?」

リオンとロイドの顔を忙しなく交互に見やっては、恥ずかしさからか離れようと抵抗するカイルを強引に胸の中へと収める。
それだけであったかくなる存在を決して離さぬよう、力の限り強く抱き寄せる。

「ちょ、リオンさ、…苦しいよっ…!」
「黙れ」


おとなしく、僕に抱かれて恥ずかしがってればいい。

その瞳に、僕だけ映っていればいい。


そこで目をぎょっと丸くしたきりどうしたものかと驚くロイドに、リオンは目を細めた。

さっさといなくなればいいのに、鬱陶しい蚊の存在を払い落とさんとするような瞳に、ロイドも微かだが背筋が震えた気がした。

そして、リオンは一切の無駄がない、それでいて静かな繊細な動きでダガーの切っ先を、ロイドへと向ける。
何とも極普通の一連の行動過ぎて、惚けた顔を晒すロイドに、リオンの表情が冷たく成り変わった。

「言っておくが、カイルは僕のだ。…奪おうなんて野暮な事するなよ」

「……リオンさん…?」


腕の中の愛しい存在が遠慮がちに名前を呼んだ時、何かが、始まった気がした。



――――――――――――
タイトルからしてダメなフラグがっ…
つか…これってヤンデレというより、なる前の初期の初期って感じ。
果たしてこれをヤンデレ話と豪語していいものなのか……。

と、なんだかこのような仕上がりになってしまいましたが、匿名様どうぞ受け取ってください!




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