月の美しい闇夜に朱い雫が妖しく輝いて弾き飛ぶ。

「――害虫が」

男の無様な断末魔は途切れ、赤黒い血が地面に広がっていき身体が痙攣する様を、リオンは冷酷な目で見届けた。その男の命の鼓動が止まるまで、剣はそのまま引き抜かれなかった。

人を殺す事に躊躇がなかった。なくなった、が正しいかもしれない。

リオンはこの死体をどう始末するかはもう決まっていて、何ら問題はなかった。

「死に顔も汚い奴だ…」

足で顔を上げ薄ら冷たい笑みをそれに向け、頭を“ぐしゃり”と踏み潰した。

「…害虫には似合いの末路だがな」

これで何度目かも分からない殺人に心を痛めなくなったのは重症かもしれない、と自嘲気味に笑ってマントを翻した。





エルロン家に行けばシチューの香りとスタンとカイルが迎えてくれた。
今日はビーフシチューだよ!と笑顔で腕を引っ張っていくカイルに呆れながらも、リオンの表情は柔らかく満足気だった。

さっきまで人を殺したというのに僕はどうしてこんなに冷静でいられるのだろう。

スプーンでビーフシチューを掬いながら、ふと、リオンは考えていた。
こうしてカイルの笑顔を見ていると分からなくなる時がある。

そして、別に殺す必要もなかったんじゃないかって、カイルが僕に笑いかける度に思っては焦燥して心が乱されていく。

「……リオンさん、何か元気ないよ?」
「…具合でも悪いのか?」

似たもの親子が同じように首を傾げて聞いてくる微笑ましくもある仕草に、何でもないといつもの通り答えていくうちに自身が反発する。

“何でもない”わけないだろうって。

「何かあったら言ってね?…頼りないかもだけど、リオンさんが困ってるなら助けるからさ!」

あぁ……君は無垢で綺麗な笑顔を僕にくれるんだ。

僕が何をしてるか知らないで、君は“助ける”なんて言ってしまうんだ。

もし、“助けて”って言ったら君は


「……そうか」


――こんな罪だらけの僕を、愛してくれますか?




―――――――――――――
ヤンデレ………です!きっと!
でもカイルの無垢な笑顔を見てしまうと心が痛んで、自分のした事は間違えてるのでは?とリオンは深い闇に突き落とされていく……というのを書きたかったんです。

仕上がりも遅くなってしまいリクエスト品なのに、短か過ぎて申し訳ないです…;;;
※8/18日にリクエストされた匿名様のみ、お持ち帰りフリーです。

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