朱い、何かが飛んだ。
黒衣の少年―ジューダスの顔が苦痛で歪んだ時、自分は何も動けなくなる。
ナナリーが弓矢を放って、ハロルドとリアラが回復詠唱をしていて。
オレはロニの後ろに守られて、手も足も目も動かなくなって。
気づいたらもう宿屋にいた。 どうやって戻って来たのかうっすらとしか覚えてないけれど、ジューダスをロニが抱えてオレはリアラに手を握られていた、と思う。
破れた服から覗くモンスターの鋭い爪で斬り裂かれた腕は、止血された後でも包帯が赤く染まり、酷く顔が青ざめていた。
「……カイル…お前のせいじゃねぇ」
震えるカイルの体を落ち着かせようとロニが背中をさすっても、頭を埋め尽くすのは――
血が怖い。 怖くて思い出したくない記憶が、また自身の体を蝕んでいくから。
「……ジューダスは………死なないよね…?」 「……大丈夫よ。こいつがこんな事で死ぬ訳ないじゃない」
ハロルドがそっと優しく手をカイルの肩に置き、緊張して強張る体を解すように撫でた。
「……とりあえず、ジューダスは皆で交代して見よう」 「…ナナリー……オレがずっといる…」
彼が苦しんでいるのに少しでも寝るのは許せない。 せめて、傷を負わせてしまった自分が最後まで看たいと、カイルはナナリーに強く願った。
「…分かった。ただし、あんたも無理するんじゃないよ?」
うん、と頷いてジューダスの手を握りしめカイルは目覚めるのを待った。 ロニ達はしばらく2人の様子を見てから、部屋を名残惜しく去り扉は音も無く閉まった。
静まる部屋に嗚咽が響く。 何も出来なかった自分が悔しくて腹立たしく、無力なのだと思い知らされ手に力を込めた。
「…守られて、ばっかだ!とう…さん、かあさん……ロニ、にもっ…」
ジューダスを守りたいのに。 守られてばかりじゃ嫌なのに、いつも傷を負うのはジューダスで……
「……ジュ…、ダスに…もう、痛い……思ぃ、させないって決めた…のにぃ!!」
過去の彼は大切な人の為に悪に全てを委ねた。 たとえ世界を犠牲にし人々に裏切り者と罵られても、ジューダス―リオンは自己犠牲の道を選んだ。
「……ごめ、っなさ…ぃ……」
涙が握りしめていた手の甲に落ちた時、彼の手が優しく握り返してくれたようなそんな気がして、カイルは涙の止める術を忘れてしまった。
――お願い 早く目を開けてその腕で抱きしめて…
1人じゃもう涙を止める方法がわからないから――
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甘くないジュカイ…(´・ω) カイルは自分の過去を思い出した後、血はトラウマだったりするんじゃないかなぁと原作捏造しました。
甘味の欠片もないジュカイですが、受け取ってくださいω´)
※8月7日リクエストされた匿名様のみお持ち帰りフリー
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