*お約束ネタ(記憶喪失)





「それで、原因はまだ分からないのか?」
「んー……これがなかなか、なのよ」

事態は深刻だ。
このハロルドでさえ原因が分からず悩ましている対象は、大人しく椅子に座り不安気に瞳をさまよわせるカイルだ。
その姿をリオンはもう見るのが辛かった。

「とにかく、私とジェイドで記憶を戻す方法を探しておくからカイルと街で遊んできなさいよ♪」
「は?」

この状況でそんな暢気な事言うなと怒りが込み上げていくリオンに、遥かに精神的にも大人である彼女は先ほどとは違う真剣な顔で続けた。

「あんたの傍にいた方がもしかしたらカイルの記憶が戻る可能性も高いのよ」
「……」

ハロルドの言葉に強い意志が宿っている気がしたのも、彼女もまたカイルの初対面同然の態度にもどかしく感じているからなのだろう。
だからこそ、リオンはもう何も言わずカイルを街へと連れ出した。

その足取りはいつもよりゆっくりと、初めて世界を見るかのように。





「……あっ…あれは、何ですか?」

ズキ。何かが鈍く傷ついた音を遠くへと飛ばして、リオンはジェイドから言われた通り微笑んで答える。

「あれはパン屋だ。…行きたいのか?」
「パン、…屋?行ってみたいです…」

じゃあ行くぞ、と昨日までは繋いで歩いていた手も、今日はひらひらのレースに迷子にならないためにと、恋人の控えめに掴まる手に、静かに苦笑した。

ああ、早く戻ってくれ

そんな感情は押し殺し、リオンはカイルが欲しいと指差したマーボーカレーパンを買った。


「…なんか…熱い、ですね」
「あそこは焼きたてばかりだからな。気をつけろ」
「そうなんですか……気をつけます」

まるで他人のような話しの内容が、気に入らない。

「敬語はやめてくれないか?」

冷たい声がカイルの体をかすかに震わしたのだと、すぐに慌ててリオンは優しく柔らかな声で言い直した。

「いや、…すまない。僕とお前は…敬語なんか使う関係じゃないんだ。だから、カイル自身の言葉で僕と話して欲しい」

もどかしい
優しくではなくて、普段のように気遣いせずにいじめたい


『お前』と笑い合いたい


「………うん、そうするね…」




その言葉と笑顔はやっぱり違っていて、僕はもっとお前が恋しくなる。






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それで終わりかよ?!な短いカイル記憶喪失ネタ。
ギャグ要素は排除してちょっぴりシリアス調にしてみました(^ω^)


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