懐かしい君との思い出
今もその幼さは残っていて危なっかしく、僕は毎日手を焼いている。



「リオン、リオン!これよんでー!」
「今はそれどころじゃないんだ。あっちで遊んでろ」

そう、今僕はどこかのヒス女にパシられ、ただいまデュナミス孤児院清掃員に成り下がっている。まぁ今に始まった事でもないから慣れたが。

「やだやだやだー!リオンのこえ、きれいだからききたい!」

ジタバタと駄々をこねだす5歳児カイル。
僕がこのぐらいの歳だった頃は部屋で勉強したり、剣の修行をしたりと他の子どもよりも落ち着いていたなぁ‥と、ふと懐古し我に返る。

「い・い・か・ら、外で遊べ!掃除が進まないだろ」

本を読もうにも何しようにもこの面倒な事が終わらなければ、出来ないのだからと合理的に考える僕に相手は子どものカイル…そんな理屈など通る気もしないので、外で遊ばせるのがとても良策だろう。

「じゃああそぼー!」
「駄目だ!」

こいつはもう!僕が忙しいっていうのに遊ぼうだの、全く少しは待てないのかとイライラする。

が、それが悪かったようで。
たまたまカイルの近くにあったバケツが、勢いよくひっくり返ってしまった。
イライラしていた僕はそのまま――

「〜〜〜しばらく帰って来るな!!」

襟を摘んでポイッと。その間秒単位。
放り投げられたカイルはくしゃくしゃ顔を歪ませて泣きそうになったのを、ピシャンっと八つ当たりでそんなの知るものかという勢いで戸を閉めてやった。

ふぅ…これで掃除が出来るな。
リオンは床を滅茶苦茶に濡らす汚い水を、丹念に拭き取っていった。





カイルはとぼとぼと歩いていた。
瞳には涙が溜まり歪む景色に、足がおぼつかず村の人が何かあったのかい?と話しかけても、カイルはただ俯いたままだった。

リオン……おこらせちゃった…
どうしよう……
……もうゆるしてくれないかな?

「……おはな…あげたら、ゆるしてくれるかな?」

今のカイルにはこれが精一杯だった。
あんなにも怒ったリオンは初めてで、相当堪えたカイルは言いつけを守ればきっと許してくれる、…と幼い頭で考え森の中へと入って行った。

昼と夕暮れの狭間の森はどこか薄暗く、かすかな恐怖心が心と足をざわつかせた。

スタンとよく遊ぶこの森も何だか異世界のようで、カイルの足はその場で立ち止まり木の下で膝を抱えて座りこんだ。

「リオンのバカ……あんなにおこんなくても…いいじゃんか!」


ただ遊びたかっただけなのに
物知りなリオンのいろんな話を聞きたかったのに

“しばらく帰って来るな!!”


眉も目も怒りに満ちたリオンの顔と言葉がカイルの頭に焼き付いて離れず、とうとうカイルの泣き声が森に響き渡った。


この場所がどこなのかも忘れて…






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