美大生リオン



自分は絵を描くのが好きだ。
紙と絵の具さえあればありったけの感情をぶつける事が出来るから。
余計なしがらみも何もかも、そこには存在しない。だから好きだ。

―コン、コン。
無粋なノック音が響く。
この神聖な時間が打ち砕かれてしまうのは不愉快だが、リオンには来訪者が誰なのか知っているから特に眉をしかめたり、邪険な扱いをしないでその1人の少年を迎え入れた。

「毎回飽きないな、お前も」

普通の定義は分からないが、普通思春期盛りの少年がこんな彫刻や油絵しかない美術室で、放課後を潰して楽しい筈がないのに、この少年は―カイルは毎日と言っていい程大学に来る。

今ではもうほぼ全ての院生に顔が知られているくらいだ。

「リオンさんといると楽しいんだよ」
「…何で」
「何でって…うーん……よく分かんないけど楽しいから来たい!それだけかな」

深い理由も何もない、単純でさっぱりした返答がリオンには心地良く感じた。

カイルの心は、この世に存在しない澄み切った純粋の色だと、僕はいつも思う。
そのくらい、カイルは綺麗だ。
綺麗だからこそ染めたくもなる、胸の内に宿る黒色で。
瞳と心、そして身体に。

「…リオンさん、今度一緒に遊園地行こうよ」

また突拍子もない事を突然言うから、筆先が一向に進まなくて困る。
今日は絵を諦めた方がいいだろう。いつもの事でもあるが。

「遊園地より映画館がいい」
「えぇ〜眠くなっちゃうよぉ〜…ジェットコースターとか最高じゃん!」
「あんなの酔うから絶対嫌だ!」

意味のない下らない話。前の僕なら絶対にしなかった事の1つ。
他人に時間を割くくらいならば、1人の時間を…と優先していた僕にはいつの間にか壁が出来ていて、周りの人間は“変わった奴”だとか“孤高のアーティスト”…だのと敬遠していった。

だからといって、どうこうしようとも思わなかった。

――それから、出会ったのがこいつだ。
街中の噴水公園に咲いていたガーベラが気に入って描いていた時に、カイルが急に声をかけてきたのが僕等の始まり。

“すごいですね!どうやったらそんなに綺麗に描けるの…ですか?!”
“……別に大した事じゃない。ただの趣味の1つだ”
“それでもすごい!ここの花びらとか綺麗だよ、…です”

慣れない敬語を使って身振り手振りで必死に伝えるカイルの、その心に奪われた。

これを機にあっという間に僕等の距離は縮んで、喫茶店やブティックに出掛ける仲になった。

「……そっかぁ…ちょっと、がっかり…」


その顔は反則だ。どうしても笑顔にさせてやりたくなる。
お前は世界で一番狡い奴だ、とリオンは困った顔で笑って、降参の溜息を吐き出した。

「…ジェットコースターは御免だが、遊園地くらいなら連れてってやる」
「――ホント?!やったぁ!!」

憎たらしい切り替えの速さに拳骨(げんこつ)一発お見舞いしてやりたいところだったが、カイルの我が儘に負けてしまう僕も相当人間が変わってきたようで、こいつとの休日に胸を躍らせている自分がいた。

「へへっ…楽しみだなぁ〜」

……ま、もうそんなのどうでもいいか。

リオンはカイルの眩し過ぎる笑顔を見て微笑んだ。




――――――――――――――
美大生を意識してリオンにはちょっとロマンチスト?になってもらいました。
一応カイルとは他人設定なんでリオンよりジュダがいいかな?と思ったんですが、やっぱりリオカイで!

最初は絵の参考になって欲しいからとカイルにいかがわしい格好させる変態リオンを…とバカ話を書いてましたが、沸いた頭を冷やして思い直しこっちにしました;

でもこの2人他人設定だと家族設定やらに困る(`-д-´;)




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