「ん」
「――、ん?」

本を捲っていた手を突然止められ、顔をあげれば意味不明な“ん”と澄ましたような間抜け面のカイルが、チラチラ目を開いてはまたそれを繰り返す奇行。

何がしたいんだか全く分からない。
しかし妙に嫌な予感がしなくもないのは、気のせいであって欲しい。

「もぅ…リオンさんつまんないよ」

そしていきなりのダメ出し。
言わせてもらうが勝手に家に上がり込んで来たのは、お前なんだからな。
こっちはたまにはゆったりと休日を1人で堪能しようとした矢先に、その貴重なる時間は呆気なく数秒で空しくも終了した。
名残惜しくもある平穏な休日は別れを告げた。

「何がつまらないんだ」
「…構ってくれないからつまんない」

あぁ…そういう事、とリオンは理解して何気なく虚空を見つめてから、意味有り気な笑みでカイルに向き直り本を閉じた。

「…だったら、僕にキスしてみろ。もちろん口にだ」
「――はァ!?」

何て事言い出すんだ!、面白い程に目を真ん丸に見開いて顎が外れるんじゃないかというくらい、口を開け放ったままの色気の欠片もないカイルの反応が可笑しくて笑えば、顔を紅潮させて睨みつけてくる。全く怖くもない。

「笑わないでよ、もう!」
「…っ!」

――まさか、本当にするとは。甘く見ていたかもしれないな、と侮っていた自分を恨んだ。

ソファを背中に受け止めてされるが侭、リオンはカイルの稚拙な舌の絡みを何処か遠くの出来事みたいに感じながら、そっと腰に手を強く添えてほんの意趣返しに舌を絡ませれば、ほら、簡単に涙が溢れた。

「…ん、―んぁ?!」

銀糸が唇から繋がって厭らしく、それが導火線となって。

「…僕を押し倒した度胸は認めてやるが、詰めが甘かったな」

僕の下で悔しげに眉を下げて睨んでもただ可愛らしいだけで、凄みも威厳も感じないいじらしい抵抗は加虐心を煽るだけだと、こいつは知らない。

…まぁ、そんな事は一生教えてやらないが。




――――――――――――――
リオン、あんた誰だ。
やけに余裕綽々のブラックな大人です。
ツンデレないリオンもなかなかそそるものがありますね…
カイルいじめる事が生き甲斐なんです、(我が家の)リオンは。

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