木と木がさざめき、あたりは不気味な闇が支配し立つ事も出来ず、体育座りで身を縮こまらせたカイルの視線の先には一匹のウルフが、瞳を光らせ舌なめずりをしている…そんな危機的状況だった。

「ふっ…ぅう…っ、ぁ…」

怖い 怖い

いつもはスタンやリオンに守られて森を遊んでいたカイルに、当然モンスターと戦えるような力もなく、近くに落ちていた木の棒で形だけの防御をしても、そんなものは意味をなさずモンスターはまるでこの状況を楽しんでいるように、ゆっくりとゆっくりと歩み始めた。

……しんじゃうのかな?
まだリオンにごめんなさいしてないのに………


カイルはぎゅっと目を瞑った。






心あたりのある場所へ行けば、予想通り最悪な状況に血の気もなくなり懐に常備していたダガーを、その対象に投げ飛ばした。


「カイル!!」
「……〜〜リオン!ごめんなさいッ!!」

仕留めたウルフも遅れてやって来たスタン達の驚く顔も、気にも留めずひたすらにガタガタと震え必死に謝るカイルの身体は、リオンの胸の中へと沈んだ。

「ごめ、…なさい!リオン…オ、レ…おこらっ…て……」

全く、僕の方が子どもだ。
自分に懐くカイルを怒鳴りつけ、怖い思いをさせてしまったのに先に謝られてしまうなど、本当不甲斐なく感じる。

「……カイル、泣かせて悪かった…。もう、怒らないから……」


嗚咽で跳ねる身体を優しく撫でて落ち着いた時には、すっかりカイルはリオンの腕の中で寝息を立てていた。

その後はカイルをおんぶして帰る最中、事の詳細を知ったルーティには怒られ、次の日は掃除ではなくカイルのお守りだけを頼まれたリオンは、昨夜とは別人でカイルを溺愛するおじさんへと化したのだった――



そんな事もあったな、とミルクティーを飲みながら思い出に耽っていた時、突然背中に抱きついたカイルにリオンの顔は綻んだ。





 


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