「おい、スタン」 廊下でぶっきらぼうに呼ばれて振り向けば、どこか剣呑な雰囲気のリオンがいた。理由は分かってる。 「だから言った通り、…カイルはリオンのパートナーを辞めて他の子と組むんだよ」 昨日の夜、カイルは涙を流して気持ちを俺に言ってくれた。 だから団長室でそれをリオンに伝えた。 リオンの親友である前に俺はカイルの父親だから、3年間寂しい思いをさせた罪滅ぼしもしたかった。 「それは国王も承諾したのか?お前は父親だろう。カイルの我が侭を通す気か?」 「…父親だからだよ。リオンには分からないだろうけど」 親バカだなぁと思う。 リオンとカイルの気持ちは分かるけど、子を優先してしまうのはきっと俺しか分からない。 「随分と棘のある言い方だな。はっきり僕に言えばいいじゃないか!」 「、カイルの気持ちにも気づかないでパートナーなんて言うな!!」 シグルスになるために必死で頑張ってきたカイルを、俺は知らないけどお前は見てきただろ? もしかしたら俺よりカイルの事を知ってると思ったのに。 「……カイルと話がしたい。…そう伝えといてくれ」 しばしの沈黙を裂いたのはリオンの静かな声。 それだけ言い捨てて、マントは翻った。 家に帰ったらリオンさんがいた。 「…遅かったな」 「……り、リオンさん…」 スタンは眠いからちょっと寝てくるとバレバレの嘘を残し、2階の部屋へとわざとらしい欠伸をしながら行ってしまい、カイルも慌てて逃げるように階段へ――行けなかった。 「逃げるな。僕の話を聞いてから行け」 逃がすまいときつく腕を掴まれ、鋭い瞳にカイルは諦めるしかなくリオンに引っ張られるまま、ソファーに腰かけた。 「…ど、うしてここに?」 「……それは、僕に来て欲しくない…そういう意味か?」 カイルが赤ん坊の頃より前からこの家に来ていたリオンにしたら、拒絶されているとしか思えず仕方なかった。 「…そんなわけじゃ…ないけど」 うろうろと彷徨う視線がさらにリオンを不機嫌にさせた。いつもみたいにはっきりとしないカイルに次第に苛々してきたが、自分がここでキレてしまえばややこしくなるかもしれないと、寸前で拳を握って我慢した。 「だったらどうして僕を避ける?不愉快だ」 理由も分からず一方的に避けられ、何があったかも教えず言伝(ことづて)でパートナーを辞めると言われた事にも、実のところ腹立たしくてもっと追及したいのが本音だ。 「………リオンさんのためだもん…」 そう告げたカイルの瞳に雫が落ちていくのを、リオンは目を見張りそれから言葉を紡げれなくなった。 ← → |