お題021




必要性の疑うタイムカードを打ち込んで入室した時、既に彼は居なかった。本人の在宅しない部屋へと入るのは、初めこそ気が引けたが毎度の事で慣れたもの。デスク上にある書類に目を通し書き込まれた仕事内容を処理し始めてから大分時間が経過しただろう。部屋を照らす光が薄まり電気を付け、あと数時間で帰ろうかと思考した時、玄関先からガタンと音が響いた。


…?


簡単に書類を纏めてから腰を上げ、誰か居るのかとモニターに目を向けようとした時扉が開いたのに気付いた。彼が帰宅したのだろう。ただいまの一言でも発したらどうかしら。対義語は絶対言わないけれど。


「遅かったわね」


そう表出作用を形どる私の声は、扉から入った直後ずり落ちるように倒れた彼の超神経まで届いただろうか。





「有り得ないうざったい殺したい何だあれ馬鹿じゃねぇの有り得ない普通飛び込んでくるか気持ち悪い恐怖に感ずる神経ぐらい持ち合わせろよ神経過敏の癖に伝道しないように末梢事切り裂きたい本格的にあぁくそ!なんで死なねぇんだあいつ!」

「今日は随分荒れてるわね。珍しく大怪我は無いみたいだけれど」

「冗談じゃない!もう少しで俺は人間を止める所だった!あいつ…っ、あぁくそ。疲れた。少し寝るから波江さんも仕事片付いたら勝手に帰って良い。あぁそうだ」



タイムカードは忘れずに



最後に一言付け足した彼は寝室へと足を運んだ。その一言の重要性なんて理解力に欠けるようだけれど把握出来るようになったら何かを無くす気がするので違和感を大切にしよう。私はまともな人間だ。足元に有る彼の上着を手に取り広げる。決して防寒着として機能を果たさない程面積が無くなったコートは捨てても良いのかしら。良いわよね。


投げ捨てるように放った後所有場所へ戻り付いた。仕事はもう終わる量。余裕と一息付けば雇い主が気になった、そんな自分に笑う。今まで誠二の心配しか無かったのに。私はもうおかしいのかもしれない。それは彼の所為だと確信の付く決定事項で有るのは否定出来ない物であって、彼本人がおかしいのだから仕方の無い事。今まで人間しか愛さなかった貴方が、長い間一人に執着し続けているんだもの。飛びきりの笑話ね。指差してやろうかしら。最低なんて下等な言葉が似合う貴方が一途だなんて誰が思うでしょうね。



「貴方の中に愛してるなんて語源無いのでしょう。随分ひねくれ者ね。名前は性格に出ると良く言うわ。名言ね。そう、行動で表すそれも愛情表現のつもりなの?」





返事の無い空間は
また1人だと錯覚させた











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