(赤+琴)



何が良い事か悪い事かなんて親に教えて貰う以外知らないような曖昧な頃の記憶を、一つだけはっきりと覚えている。今みたいに兎角暑い中雑音で目が覚めた。雑音と言うより、鳴き声。確かそれは蝉の声。理解しているのに不思議と気になって閉め切ったカーテンを開けたその眩しさに目を細めながら先を見た時に、ソレを捕まえたくなったのは何でだろう。思い立った直後には玄関から飛び出し途中で出会った少年に、虫取り網と籠を借りた僕は夢中で飛ぶそいつ等を追い掛けた。今じゃ考えられないよね。

思い通りに中々出来無く何時間も自分の身長の何倍にもなる木の周りで彷徨いて、やっとの思いで一匹捕まえたんだ。急いでグリーンの所に走ったよ。あいつに見せてやりたかった。それだけの為に無駄な体力を使ったんだよ。今じゃ有り得ないよね。

だけど居なかった。母さんに聞いたらグリーンはナナミさんと一緒に出掛けて帰って来るのは明日になるそうだ。そう言えば、昨日グリーンがそんな事を言っていた気がする。どうでも良くてすっかり忘れてた僕は仕方無いから網だけ返してソレを籠に入れたまま家の前に置いたんだ。明日帰って来たらあいつに見せてやろうと思ったから。

次の日グリーンが帰って来ると、僕は真っ先に籠を取りに家を出て相変わらずの暑さと雑音の中籠を手に取った。見せたら何て云うかな。きっと色んな自慢話はして来ると思うけど凄ぇって言ってくれるかな。なんて期待を胸に彼の所へ行こうとした途端に手元の重みが偏った。なんだろう。その感触に籠を覗き込むと、蝉は隅で仰向けに転がっていた。そう、死んじゃったんだ。考えてみれば、元々弱っていたから捕まえられたのかもしれない。最後の時間をこんな箱の中で終わらせてしまった。ごめんね。

籠を開けて地面に落として見下ろすと、僕はそれを踏み潰した。





「今思うと、酷い事したかなって」

「えー私だってそうしますよー。でも私ならその死骸を見せに行ったかなぁ。安全ピン付けてバッチにして赤髪君にプレゼントするの!」

「嫌がらせには、最適だね」













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テーマ「人外ファンタジー」
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