強くならなきゃ。今まで一度も思わなかったその小さな事が頭を駆け巡るようになってから、私は一度自分の家へと戻った。扉を開けて踏み込むとママが少し驚いたように此方を見て、おかえりも言わずにお金の話を口にした。あぁもう煩い。私に何を期待して居るのよ。どうでも良いわ。

聞き入れず自分の部屋へと駆け上がって、閉め切ったカーテンを大きく広げた。今日またこうして私の場所へと戻ってきたのは最初からやり直す為だ。もう一度ここから始めて、今まで興味も示さなく否定し続けたトレーナーと自ら目を合わせに向かおう。私は強くならなきゃいけないんだから。誰よりも何よりも強くなって、彼に認めて貰えるように。

行って来ます。階段を今度は滑るように駆け降り、あの時には重く感じた言葉を発して、私は再び外へと駆けだした。あぁもう。黙っててママ。


そう、その時は唯彼に強くなったなと言って欲しかっただけだったの。それから経験も積んで、私の友達も進化した。色んなトレーナーと戦って、チームを編成して弱点を補って、ジムにも挑んで、途中訳の分からない組織とも戦った私は数カ月ぶりに彼と出会った。ねぇ戦ってよ。優しい彼は私を見下すように笑って引き受けてくれた。あぁ、やっぱり格好良いなぁ。




今日初めて彼にバトルで勝った。やった彼に勝った嬉しい。今までの苦労は無駄じゃ無かったんだ!いや、決して楽なものでは無かったけれど、苦労では無かったのよ。私の、彼の為だものね!私頑張ったんだよ!ねぇ、褒めてよ。強くなったねとか、まともになったなとか。私本当に頑張ったの。貴方に少しでも認めて貰いたくて、少しでも眼中に入れて貰いたくて、我儘とか自惚れかも知れないけれど私は君に少しでも追いつけたかなぁ。ねぇ、何か言って。



「勝てて嬉しいか?」



今のは手を抜きすぎた。お前が勝てたのは偶然だ。弱過ぎてつい遊びすぎたじゃねぇか。聞こえたのは私が欲しかった言葉じゃ無かった。彼は私なんか見てくれなかった。私は彼に取って何も得る事が出来ない相手の一人なのだろう。まぁ、そうだよね。たった一回きりの勝ちだもの。彼が手を抜いて居たのも、私が勝てたのが偶然なのも本当だ。もっと強くならなきゃ。彼が本気を出してくれるように、彼よりも強くならなくちゃ。手が届かない程強くなって、一番強くなれば彼は一番強くなる為に私を追い掛けてくれる筈。きっとそうだ。私が一番になれば、彼はきっと、ずっと。






(何時も先に居た彼を追い越すようになったのは、確かその時からだった)












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テーマ「人外ファンタジー」
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