小さい頃から絵本やテレビに憧れを持つのは変な話では無い筈。誰だって特別になりたいでしょ。子供の頃は特にそう。けれど皆を支えるヒロインやお姫様に目は向かなくて、女の子らしく無いとは思うけれど、主人公に酷く憧れた。軽々と飛び回る身軽さを持ち、絶対に勝てる筈が無い敵に立ち向かっては仲間を守る姿が幼い私の目には本当に格好良く写ったんだと思う。私もあんな風になりたい。その気持ちは本当に強くて、物心付いた時から伸ばしていた髪も切ろうとしたぐらい。

結局ママに止められて、髪を上に纏め上げ帽子の中に納める事で納得。動きやすい服装を好んで、チェレンとベルを連れては危ない事ばかりして居た気がする。兄弟が居ない私には幼馴染みの二人は私に取っての兄弟だったし、あまり活動的では無い二人を先頭に立って引っ張る事で、正直優越感を味わって居た。最低よね。笑っちゃうわ。本当に最低。一度群れからはぐれた野生のポケモンが混乱した為に放った技からベルを庇い背中に大きな傷を負った時も、懲りる事は無かった。

寧ろ余計に調子に乗ったのは、身体を張って人を守ったと言う自己満足と、ベルがより私の事を慕いだしたからだった気がする。別にベルの為じゃないのに。私の為だったのに。そう言えばチェレンが力に拘りを持ち始めたのも、その時からだっただろうか。女で有るベルを守れなかった事と、女で有る私が傷を負った事に男として情け無く感じたのかもしれない。当時の私はそんな事全く関係無く思って、兎に角自分の事で精一杯。馬鹿みたいね。

今は歳を取った事も時間がたった事も有ってか大分落ち着いた物で、それでも長い間そうであった為に髪を上げ軽い服装は好み続けた。現にポケモンと一緒に進む道はとても楽しい物で有ったし、とある団体から人々のポケモンを助けるのは偽善だとしても良い事をして居ると思えた。何だ、昔と変わらないじゃない。変わった事と言えばそう。緑の髪をしたあの人の事が気掛かりで仕方無かった。


女の子らしくなりたいなぁ


一度そう思ってしまったら、急に自分が嫌になった。動き回っていた事も有り筋肉質の身体は引き締まって見えるから、身体付は良い方だとは思う。けれど両手足は傷痕だらけ。小さい頃出掛ける前にママが日焼け止めを塗ってくれた事も有って肌は白い方だけど、白い分傷痕も目立った。今まで全く気にしなかったのに。肌を露出するこの格好に違和感。途端恥ずかしくなって、怖くなって近くのデパートに飛び込んだ。





「やぁ、久しぶり。珍しく長袖なんだね。上着もズボンも」

「…ちょっと、肌寒くて」

「ネジ山をあの格好で登り歩く君が?本当に珍しい。今日は暑いぐらいなのに」



そう言って左腕の袖を捲り上げた彼の腕は本当に綺麗だった。気にもしなかったのに。私、本当に今まで何してたんだろう。怪我ばっかで、全然女の子らしく無い。ベルみたいに優しくて少し天然で、可愛らしい子になりたいだなんて今更。お話の中のヒロインになりたいだなんて今更。あんなにも憧れて居た主人公は酷く憎い物に変わって居た。目頭が熱い。馬鹿みたいに泣きたくなって、思わず俯いて笑った。




「私みたいな女らしくない女より
これじゃあNの方がお姫様みたいね」













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