「****」
一言。何処を見る訳でも無く、取り立てて何と言う事も無く呟いた。いや、成し遂げようと目的や思惑意図を持ったつもりは無いから、心外にも零れ落ちたと言う方が道理に有っているだろう。考えが及んだ時には勝手に口が皮膚に続く場所に有る上下の糸状の粘膜が形成した結果なんだから。行方にしても僕が言った事に変わりは無い。口にしたと言っても異常では無いと思うけれど。
「誰がだよ」
ぐるんと彼が座って居る椅子が此方へと向けられ、聴覚器官が反応したのか僕が発した意義に付いて相手はそう反問して来た。そのまま事務机に顔を向け何も聞かなかったと否定してしまえば良かったのに。本当、昔からそう。その場の雰囲気も読めないのはどうかと思う。随分と前に同じ事を本人に指摘すれば、勝ち誇るように空気は吸うものだと吐き捨てられた事を思い出し苛付いた。馬鹿かよ死ね。今だってそう。折角そんな無駄で役にも立たない事を聞いてくれても、僕は知らないと答える事しか出来ないよ。
「意味不明。自分で言ったくせに」
そう言われたって困る。見分けも識別も事柄の存在を認めも認識も分からなかったから知らないと口にしたのに。今度は道徳的価値評価を担った上での故意で下した判断だ。だけれど僕は知らない。あれ?
「そもそも僕、何て言ったっけ」
正直何を主張したかったのか、よりも何を言ったのか分から無い。あれ、おかしいな。何時の間に損失したのだろう。僕が発声器官を脳真下で動かしたその事に、相手は誰がだよと返した。確かに僕は有る意味を表し示した筈なのに。不思議ともう忘れてしまったらしい。
「はぁ?レッド、お前大丈夫かよ」
どういう意味それ。僕の主要部を心配してるの?本当どうかしてる。お前に頭ん中馬鹿にされるだなんて。仕方無いだろ。覚えて無いものは覚えて無いんだから。だから解釈しようと疑問を浮かべたんだ。お前は聴覚器に僕の振動音を感じたんだから分かるだろ。さっさと答えてよ。
「忘れた」
「は?何それ」
「つーか、お前何か言ったっけ」
「さぁ、知らない」