(旅する前の話)
何回通行しただろう道に対して今日は違和感を感じた。いや確かに違う。根元は視界先に引かれて居る絨毯だ。それが絨毯なんかじゃ無い事は直ぐに把握できる物で、杖の付いた雑巾のように長い生物の糸状角質形成物で有り茶色であろうその毛先は随分と汚れ、尻尾を振り媚びる事もせず唯そこに置いてある。
何でこんな所で死んでるんだろう。ぐったりとした個体を足元に無視して通り抜けようとしたけれど、何故か誰かに見られているような罪悪感を感じ足を止めた。別に僕は悪くないのに不本意だと内心落としながら、さてどうにかしようと手を伸ばして抱え上げようとしした。途端べとりと掌に付着し糸引いたそれは血液。うわぁ
見た目では気づかなかったが腹に大きな傷が有る。流れ出した液体は体毛が吸い上げていたらしい。トレーナーとのバトルで深手を追った後、態々此処まで来て息切れたのだろうか。手間掛けさせるなと取り合えず抱え上げるとまだ生暖かく柔らかい身体はぐったりと歪んで野生特有の匂いが鼻を突く。ぼたりぼたりと滴る赤で服を汚しながら此奴をどうしようかと思考した。
普通に役所に電話して引き取らせるのが一番だと思うけれど色々と説明するとなると億劫だ。馬鹿に大きな犬では無いので仕方無い自分で埋める事にしよう。
「其奴死んでんのか?」
後手に聞こえたその声に振り返ると彼が居た。見て分かるだろ、そんな事より丁度良かった手伝ってよ。そう頼めば快く頷いてくれた。あぁ、お前はこうゆうの嫌がらない人だったね。ぼたりと血塊が落ちて足元を赤くして行くのを何となく眺めている内に相手が歩き出したので少し遅れて横に並ぶ。歩く度に死体が揺れた。
「可哀想だな」
「可哀想?なんで?」
「好きで死んだ訳じゃ無いだろ」
「分からないよ」
「俺も分かんねぇや」
良く理解できない会話を交わしながら少し道脇に入った先に足を止め、何も言わずに手で草を掻き分け始めた数歩先の彼の両手は、土を両手で掻く度に汚れて行った。綺麗な手が薄黒くなるその状況が苛付ついたのは何故だろう。
「…そんな深くしなくて良い」
「はぁ?他の野生ポケモンに掘り返されたりしたらどうすんだ」
「たかが死体でしょ。グリーンがそんなに汚れ無くても良かったのに」
「死体だからこそだろーが。汚れた手は洗えば良いだろ」
「理解出来無いよ。死体って言っても人間じゃないのに。唯のポケモンだよ」
「ばーか。人間もポケモンも一緒だっつーの…よし、こんなんかな」
手頃な深さに達したのか独り納得したように此方を向いた相手の元へ足を運ぶ。たった今できた随時と居心地の悪そうな穴に抱えたそれを入れると、グリーンは土を掛けて両手を合わせた。
「確かに人間が死ねば短期間だが騒ぎ立てるけど動物は可哀想で終わってしまうよなぁー。人間が居ないと価値も付けられない。価値なんて全部同じなのに関わらずな」
「同じじゃないよ。上下ぐらいはっきりついてる」
「レッドにもか」
「そんな物無い」
「まぁ、元々評価なんて関係無いのかも知れないな。結局同じか」
「だから……」
諦めたように溜め息を吐いた。いや、諦めた。何を言っても通されるのは再び目に見え、色の変わった土に目を向ければ再び溜め息が口から漏れた。
「…ポケモンなんて要らない」
「おいおい、もう直ぐ俺達じーちゃんからポケモン貰って旅すんだぜ。今そんなんでどーすんだよ」
「別に、どーもしないよ」
「まぁお前の事だから暫くしたら逆に人間不信になってポケモンと一緒にどっか人気の無い所に行きそうだよな」
「何それ。グリーンって僕の事そんな風に見てるの?」
お前は元々人見知りだからなと突き付けられた指が爪裏まで土がこびり付いて居るのに目が向いた。そう言えばと見れば手だけで無く服や顔まで汚れている。僕の視線に気付いたのか自分の格好を見てうわぁとグリーンは顔を歪めた。
「だから適当に埋めるだけで良かったんだ。グリーンがそんな汚れる意味なんて無かった」
「何言ってんだよ。お前だって其奴の為に目一杯汚れただろ」
「…あぁ、言われてみれば」
グリーンから見た僕は酷い有り様だ