このキスに誓おう。
お主が死ぬまで、わしはお主を愛し、護り続けると。
そう言って彼は手の甲にキスを落とした。
「名無し」
ふわり、小さな羽をパタつかせながら彼女の頭に己の顎を乗せる。
それに気付いた彼女は、「カルラ」と優しい声で答えた。
2人が婚姻の誓いをしてからもう幾年も過ぎた。
そんな中人間の血が濃い混血悪魔の彼女が次第に年老いる姿を見るのが心苦しい。
死ぬ時はどうか貴方の手で、そう彼女は言っていた。
「名無し、疲れておらぬか?お主は身体が弱いんじゃから余り無理するでないぞ?」
「ふふ、大丈夫よ。相変わらず心配性ね」
そうクスクス笑う彼女。
もう、彼女は長くない。
「そうじゃ!庭園の薔薇が綺麗に咲いておってな、一緒に見に行こう」
「あら、貴方からの誘いなんていつぶりかしら。ふふ、御一緒させてもらいますわ」
穏やかな笑顔を向け、了承した。
そうと決まればさっそく行こう、と彼女の背中をぐいぐいと押す。
「年寄りを労わってくれないかしら?」
「何を言う、わしより全然若いじゃろう!」
「ふふ、貴方は変わらないわね」
「……そう言うお主は、老いたな」
「そうね。きっとそろそろ、死神が迎えに来るわ」
この世界は死神が死者の魂を回収する。
悪魔と死神は敵対関係だが、そんな物は関係なかった。
顔に出ていたのか、“そんな顔なさらないで”と申し訳なさそうに彼女は笑った。
嫌だ、こやつを失いたくない。
その想いが溢れ、涙がこぼれた。
「カルラ?どうしたのですか?」
「嫌じゃ……嫌じゃ!!名無しが死ぬのも、名無しの魂を死神にやるのも、全部嫌じゃ!!」
「あらあら……」
「でもっ!お主がそんな事望んでない事も、わかっておる……でも、でも!」
「カルラ」
名を呼ばれ、俯いていた顔を上げると優しく、彼女に抱き締められた。
「カルラ、私は貴方に出会えて幸せです。貴方と共に過ごした時は私にとって、かけがえのない物よ。貴方は違う?」
「そんな事……!」
「ふふ、じゃあ私と過ごした時を無駄にはしないで。私が死ぬその時まで……私の隣に居てくださらない?」
そう言って微笑む彼女は、何よりも美しかった。
頬を伝う涙を拭い“勿論じゃ!”と笑う。
「ありがとう、愛しているわ。カルラ」
「わしも、愛しておるぞ。名無し……」
2人で笑いあえる時を大切にしよう。
時間は有限、だから君にありったけの愛を送ろう。