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笑顔のまま移動しようとしない金髪を睨みつける。
リクは一瞬きょとんとして、すぐにへらりと相好を崩した。
「可愛いなあ―。」
ぶっ殺す。
ぐわっとわいた殺意に拳が震えたけど、出来なかった。
そんな気力、残ってない。
登校したばかりだけど、ライフポイントはゼロ間近なんだ。
「コウちゃ―ん?」
「…、どいて。」
やっと出た声は情けなく、覇気も明るさも皆無だった。
そのまま席に座り込んだ俺の口から、勝手に漏れた物憂げな溜息。
うつぶせながら、考える。
どうして。
「ど、したの・・・?」
リクの声が、不安や心配を含んでいる気がした。
あの瞳が頭から離れない。
大勢の人が行きかう朝のホームでの、一瞬の偶然による逢瀬。
だけど、どうしてもまた会いたい。話したい、傍にいきたい。
ああ、どうしようもなく焦がれてる。
無理に決まってるのに。
男同士だし、どこの高校かも分かんねぇし、今日はじめて見たんだし。
「ど、どうしたんだよ…?」
周りの奴等も、おずおずと尋ねてくる。
とまどい気を使う教室の雰囲気に、俺はますます背を丸めて机に伏せる。
「・・・一目惚れ、した。」
しん、と痛いほどの沈黙が降りた。
じれったいそれは、俺の心にそっくりだ。
はぁ、とまたひとつ溜息が勝手に滑り落ちた。
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