∴恋とは言えない。



僕は恵まれている。
両親が健在で、気を許せる友人がいる。
地元ではないものの、隣県に就職。理不尽な上司命令も過度な残業もない平和な職場で、気づけば社会人3年目の今。

恵まれている。
だがどうしても幸せだと心から言い切れないのは、恋人とも言えないようなあの男の存在の所為だと思う。

―――恋とは言えない。

出会ったのは大学生の頃。学科が同じだった。
平凡な僕とは違って、海斗はいつもその容姿や行動のために目立っていた。同じ学科とは言え、地味な僕と華やかな海斗には接点などほとんどなかった。
だから3年の時、そんないつも人の輪の中心にいる彼が、厳しいと有名な憲法ゼミに入ったときには驚いた。同じゼミになった僕だけじゃなく、知らされていなかったのか、彼の友人達もひどく騒いでいた。

一緒にいる時間が増えるうちに気づいた。
噂と外見に反して、意外にも海斗は真面目で勉強熱心だった。尚且つ気さくで明るい彼に、僕もいつしか気を許せるようになっていた。

身体の関係を持ってしまったのは、卒論を書き上げた後の飲み会の日。
お酒に弱いのについ飲んでしまった僕は流されて、次の日の朝は全裸で彼のアパートのベッドの上だった。
あまりの出来事に混乱していた僕も、いつも通りだった海斗も、昨晩の行為を語ることはなかった。

それから少しずつ、なぜだが身体の関係が始まった。
でもそのことについてお互い何か言うわけでもなく、ましてや恋人になるわけでもなく。
卒業して3年たっても、同じ県に就職した所為かずるずるとその関係は続いていた。

この関係が良いことだとは決して思っていない。
だけど、この関係を正すことも、止めることも、僕にはどうしてもできなかった。
ただ、思い悩むだけ。

だって僕は、いつの間にか、魅力的な海斗に惹かれていたんだから。この関係がはじまるよりも前に。

あの狭いゼミ室で、僕だけに笑いかけてくれる海斗に、僕は惹かれずにはいられなかった。

いつの間にか恋だなんて言えなくなってしまった、この胸の痛み。
辛いのは、きっと彼にとっては都合の良い遊び相手だろうと思ってしまうからだ。もっと近い関係になりたいと、彼の唯一になりたいと期待してしまうからだ。


心が晴れない。
恵まれている僕は、今日もひとりでそっと溜息をつく。


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