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世界に愛なんてなかった。
世界に信じることができるものなんてなかった。
歪んだ世界でただひとつ、振るった拳の痛みが本当だった。
俺は独りで構わない、だって強いから。
独りでも生きていける、独りでだって平気だ。
歪めた世界で、窒素しそうになりながらもがいていた。
ねぇ、コウちゃん。
どうして俺じゃだめなの、どうして俺を見てくれないの、どうしてどうしてどうして。
俺を、愛してよ。
視線の先にいるのは愛しい人。
みんなが恐れる俺に、自然に接してくれた唯一の人。
こんなにも、狂おしいほど愛している。
痛む胸、知らない黒髪の男と話す彼、青い空、駅のざわめき。
知ってるよ、コウちゃんはその人と付き合いはじめたんだよね。
分かるよ、コウちゃんは幸せそうだ。恋してるんだ。
あぁ、どうしよう。
分かっているのに、胸の痛みが収まらない。
泣きたいのに涙は流れずに、代わりに口角が上がった。
「コウちゃんには、俺だけでいいよねぇ?」
違う、違うの。
不幸になんてしたくない、笑顔を壊したくないよ。
ただ、愛が欲しかっただけ。
どうしようもない俺で、ごめんね。
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