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声が喉に絡まる。
生来、人懐っこい社交性も無ければ、感情を表に出すのも苦手だ。
今までは、それを苦に思うほどに何かを伝えたいと望むことなど無かった。
それが今はたまらなく苛立つ。
結局、不自然な沈黙の末に俺が言えたのはぶっきらぼうな一言だけ。
「立ってないで、座れば。」
それでも、驚いた顔をした相手、嬉しそうな笑顔、弾むように隣に座る仕草。
どうしようもなく心が震えた。
それから、俺たちはぽつぽつと会話をした。
だが、やはり俺は上手く話せず、向こうの話す割合の方がずっと高かった。
向こう・・・コウは俺とは違い、社交性のあるタイプのようだ。隣町の公立高校に通っているらしい。
朝の一瞬で俺を惹きつけた瞳だけじゃない。
くるくる変わるその表情も、低すぎない声も、傷のある拳も、鮮やかに染められた髪も。
全てが俺の目にまぶしく、そして俺の心をかき乱した。
俺たちの出会いは、全くの偶然。
突然の再会に、まさか会話まで出来たなんて、奇跡としか言いようがない。
だけど、それこそが必然じゃないのか、運命ってそうゆうものじゃないのか。
急速に世界が変わっていく。
彼がいるだけで、世界が色づく。
一度味わってしまえば、もとのモノクロの世界なんかじゃ全然足りない。
あぁ、離したくない。
もっと近くに、もっと見て、もっと話して、もっと感じていたい。
「…これからも、会えないか」
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