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どれほど彼を想いながら座っていただろうか。
退屈な時間や思索にふける時間とは、とても曖昧なものだ。時間の感覚が麻痺する。
「なぁ・・・、」
声をかけられ目をやると、まず鮮やかなスニーカーが目に入った。
そのまま目を上げた俺は、あまりの衝撃に死ぬんじゃないかと半ば本気で思った。
彼が、いる。
その瞳に、俺を映している。
その声が、俺を呼んだ。
彼が今、こんなにも近くにいる。
どくんと一際大きく心臓が跳ねた。
空はまだ明るく、恐らくまだ余り時は経っていない。
何故、彼がここにいるのか。
真っ先に、都合の良い幻想だと考えた。
「あのさ、学生・・・だよな。」
「あ、あぁ」
互いにまばたきもせずに、じっと見つめあって会話をする。
混乱した頭は不躾であるとか、そんな事にまで回らない。
彼が発した音を拾い、理解し、なんとか言葉を紡ぐことで精一杯だ。
「なんで、ここにいるの・・・?」
心底不思議そうに尋ねてきた彼は、その瞬間、少し眉根を寄せた。
「・・・こちらこそ。そっちだって、学生だろ。」
あ、という顔をした彼。
そのまま恥ずかしそうに、目をそらしてはにかんだ。
胸の奥底が、その動作だけでひどくかき回される。
どうすればいいんだ。
熱い何かがぐるぐると胸の内を渦巻いている。
もやもやと胸を覆うそれらに、今にも窒息させられてしまいそうだ。
どうすればいい。
どうすれば、この機会をうまく使えるんだ。
どうすれば、もっと彼の近くに行けるのか。
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