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その瞬間、意図せず呼吸が止まった。
全身の肌があわ立ち、胸の奥が震えた。
身体は機械的に日常の行動を繰り返すが、やはり無視など出来なかった。
抑えきれずに、俺は振り返った。
だが、そこにはもう姿を見ることは叶わなかった。
彩られていた、モノクロではなかった。
一瞬、ほんの一瞬だけだった。
それでも一際目を引かれた。
当然だ、それにだけ色があったのだから。
いや、“色”ではないか。
その瞳に浮かんでいた、今にも壊れそうで何かを求めている感情。
せつなく、儚く、痛みすら感じた。
激しいのに、端から崩れていくような。
形容など出来ない瞳の表情。
それは、不思議なほどにくっきりと心に焼きついた。
唯一の色だ、本当の鮮やかさだ。
このモノクロの世界で、やっと出会えた色彩。
「・・・会いたい。」
会いたい。
あの瞳に、あれを持つあの男に。
たまらなく、再会を望んだ。
年が近いことしか分からないと言うのに、どうしても会いたかった。
俺はただ、あれに魅了されたのだ。
まるで、今までの無関心で無感動な日々が嘘であったかのように。
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