ずっと不思議でならなかった。
なぜ俺だったのか、誰にも聞けず、だけれど忘れた日などなかった。
『どうしておまえはいつの世でも俺の思い通りにならない』
その言葉が、ようやく俺に答えをくれた。
「それは前世の話?この魂が目当て?」
輪廻転生。魂は巡る。その人生での記憶を捨てながら、生まれては死ぬ人の世を巡る。前世、現世、来世。
珍しいけれど、前例のないことではない。きっと彼は前世の記憶を持ちながら転生したのだ。そして前世に執着した俺の魂を見つけ、結婚という形で手に入れた。
彼は何も答えなかった。沈黙、つまりは、そういうことだ。
ずっと不思議だった。どうして俺が選ばれたのか。
違う、彼は“俺”を望んだことなんて、一度としてなかったんだ。
気づけば部屋にひとりになっていた。
乾いた涙の後が痛い。寂しさも怒りも、どこかへ行ってしまった。心はこれ以上ないほど凪いでいる。
愛してくれない人を、愛することなんてできない。
“俺”は望まれていないこの場所では、“俺”は生きてはいけない。
死んでしまおう。
この魂が次に宿った人間が、あの人の望みを叶えてくれるといい。
恐くはなかった。花を手入れするはさみを手に取る。
彼がくれた最後の花も、もうすぐ枯れてしまう。優しく花弁を撫でれば、懐かしさで胸がつまった。
あたたかい血、流れる温もり。
確かに俺は生きていた。それは、俺として。
この魂の前世だなんて関係なく、ただ俺として。
ただ俺として、愛してくれる人に、会いたかった。
閉じた瞼に、ぼんやりと光がさした気がした。
ああ、誰かが何かを叫んでいる。だれ?だれがだれを呼んでいるの?
俺を、呼んでくれるの?
―――…アイリス。俺の、“俺”の名前だ。
俺を呼んでくれて、望んでくれて、ありがとう。