頻繁に来てくれるとは言え、毎日ではなかったからはじめは何とも思っていなかった。三日経って何かあったのかと不安になり、五日経って耐え切れず着替えを手伝ってくれる侍女にそれとなく聞いた。
「あの方は、もうこのお屋敷にはおりません」
あくまで事務的な物言いに言葉を重ねれば、明らかになった事実に愕然とした。侍女が丁寧に礼をして部屋を出ていく。誰にも会いたくなくて、混乱する頭でゆっくりと鍵をした。
殺されたのだという。
ジルオード様に粗相をして、彼は処分された。
いつも陽だまりの中にいた優しく笑う彼の姿が浮かぶ。苦しい。胸の奥が痛い。ぎゅっと押さえる。
せっかく仲良くなれたのに。彼と過ごす時間があったから、また笑えるようになったのに。周りが距離を置く中で、彼だけが近づいてくれたのに。
気づけば涙がこぼれていた。苦しい、悲しい、さみしい。
どうしようもなく寂しかった。もう彼がいないことが、あのあたたかな時間はもう帰ってこないことが、どうしようもなく寂しい。
どういう粗相をして、彼は殺されてしまったのか。花や木を、自分の仕事を深く愛していた若い青年を、一体どんな理由で屠ったのか。
気持ちが、涙が、あふれて止まらない。
逃げてしまおう、こんな場所。どこでもいいから、逃げ出したくてたまらない。
がちゃりと鍵の開く音。顔を向ければ、冷たい顔のあの人が立っていた。突然のことに、呼吸を忘れた。凍てついた暗い目から、目が離せなくなる。
最初の寝室での会話以来、言葉を交わしたことも視線が交わったこともない。何をしに来たのか、何を言われるのかと身構える一方で、殺された彼のことに対する怒りが自分の中にあるのを感じた。
「なぜだ」
低い声はあの時と同じもので、無意識に体がすくむ。
「どうしておまえは、いつの世でも俺の思い通りにならない」
思いもかけないその言葉に、時が止まった気がした。