03
穏やかな昼下がり。
一人きりの広い私室の窓辺で、外からのそよ風に吹かれながら本を読んでいるときだった。

すぐ傍から急に響いた、ごつんという鈍い音に身を跳ねらせる。身を強張らせて振り向けば、眉を下げた優しげな青年と目があった。
見つめあったまま、しばらく沈黙が続いた。彼の茶色い髪がふわふわと風に揺れる。あの人との息のつまる緊張した重い沈黙とはまた違う、どこか穏やかな沈黙。

「…大丈夫、ですか?」
「は、はい。すいません、お邪魔して」

声をかければ、柔らかい声でゆるりと謝られる。それに軽く首を横に振って応えれば、彼は安心したように微笑んだ。

「あなたは庭師?」
「はい、まだまだ新米でして」

高いはしごに上っているのは、窓の前にある大きな木の剪定のためらしい。先ほどの鈍い音は、頭を開いていた窓にぶつけてしまったのだと照れくさそうに言う。
その手にある可愛らしい白い花のついた枝が気になって問えば、ぶつけた拍子に驚いて手折ってしまったとばつが悪そうに笑った。

「それ、くれませんか?」

優しく笑う彼に、この屋敷にきてはじめての温かな気持ちを感じた。凝り固まっていた心が、陽だまりに少しずつ融かされていく感覚。
もらった小さな枝を握りながら、またお花を持ってきてほしいと頼んだ。小さな花と優しい彼に、寂しさを思い出したからかもしれない。

笑顔で了承してくれた彼に感謝しつつ、自然と顔がゆるむのを感じた。私室にあった飾り物の花瓶にもらった花を飾れば、今までどこかよそよそしかった花瓶が急に温かく感じた。


それから彼は頻繁に来てくれた。頼んだ通り、きれいな花を持って。窓越しの会話は、日々の生活の中での唯一の癒しで幸せだった。
こうして初夏のころ、窮屈な新婚生活の中で俺はひとりの庭師と仲良くなった。




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bkm
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