02
俺がヴァリエート家に嫁いでから、早三か月。
美しいお屋敷で、何事もなく、平和な日々を過ごしている。

そう、本当に何もない。
こちらの屋敷にくるなり用意された豪奢な服を着せられ、すぐに盛大な結婚式や披露宴が開かれた。あまりにも目まぐるしい周囲の変化の中で、それでもそのことにはすぐに気付いた。いや、気づかざるを得なかった。

俺の結婚相手、ジルオードは、どこをとっても完璧としかいいようがない男だった。家柄や所作はもちろんのこと、教養、武道、馬術、芸術。さらには長身で均整のとれた美しくもたくましい細身の体躯と、整いすぎた容貌。
多くを語らない冷え切った態度と、表情の変わることのない彫刻のような顔。人間らしさはなく、どこまでも冷たい威厳が感じられる。

そして披露宴の後の二人きりの寝室で、はじめて告げられた言葉はただ一言。
「近寄るな」

賑やかな式の時も、薄々気づいてはいたのだ。彼が自分に話しかけるどころか、視界に入れようともしないことに。
どうしてものご指名とのことだったけれど、周囲はともかく本人には歓迎なんて少しもされていない。
何か事情があるのかもしれない。23になる彼に殺到する求婚が面倒だった故の、隠れ蓑かもしれないとも思った。なぜ、その相手が俺なのかは分からないけれど。

あれから三か月が経つが、本当に何もない。
彼が俺に触れることもなければ、寝室すら別に設けられているため顔を見ない日も多い。食事の際などに顔を合わせる機会があっても、会話どころか目が合うこともない。
外出の許可されていない俺は、ただ静かに部屋で過ごす。まるで飼い殺し。おいしい食事、豪華な屋敷、美しい衣類、どんなに高価な物でも欲すれば何でも手に入る。足りないものなど何もないはずの豊かな生活が、不自由で苦しくて仕方ない。

腫れ物を扱うような使用人、地元から遠いこの土地には友人もいない。まともに会話をする相手もいなければ、ましてや心を開ける相手もいない。
少しずつ心が死んでいくような、息が詰まる、平和な生活だった。




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bkm
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