06
「驚いたか。」
「ううん、あんまり。」

「恐いか。」
「そうでもないかなあ。」

「……帰りたいか。」
「どうだろう。傍にいてくれるなら、どこでもいいよ。」

「……そうか。不自由はないか。」
「みんな親切すぎるくらいだよ。」

「ならばいい。ここにいろ。」
「ああ、そうだ。あちら側があれからどうなったのか、教えてくれない?」



あの日、あの戦場は最早魔物のものであった。魔王と人の王が対峙する戦争。
人間側は追い詰められ、皆が決死の覚悟だった。
優位の魔王は、停戦の条件として、生贄として、神子さまを指した。

踏み出そうとした神子さま、神子さまを守るように立ちふさがった王様。
そのたくましく一途なままの背中に、神子さまは涙を流しながら抱きついた。
そうしてにやりと笑った魔王さまは、私をさらっていった。


王様は結婚する。
だれけど神子さまは笑えていらっしゃるそうだ。
愛はずっとあるのだと感じられたから。
幸せの基準なんて曖昧で、何が正解かは分からない。



「……珍しいな、おまえから抱きついてくるのは。」
「まあね。ねえ、魔王さまは結婚しなくていいの?」

「……式を挙げたいのか?」
「お世継ぎはいらないの?」

「魔王は世襲制ではなく実力主義だが。なんだ、子が欲しいのか。」
「え?」

「人ではない。おまえとでも子は成せる。俺の番いはおまえだけだ。」
「……そう。」

「俺は少なくともあと500年は二人きりでいい。」
「……。」


魔王の精を受けた所為か、私はどうやら人ではなくなった模様だ。
それでも私は心底幸せである。
力強く抱きしめてくれるその腕に安堵する。確かに愛はここにあるのだ。

ありがとう、愛しい魔王さま。


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bkm
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