夜の闇よりもずっと深い漆黒の髪。そこから覗く曲がった白銀の角。
血のように紅い目。
長い髪と揃いの大きな翼。
禍々しいまでに大きなその存在が姿を現すと、大気が震え、大地が慄いた。
一目で分かった。
これが数多の魔物を束ねる王様、かの魔王。恐ろしく、そして美しい。
全身が凍てつくほどの力を感じる。兵がたじろいだ。
そして直感だった。
これが、彼。
ずっと僕を支えて、傍にいてくれた人。きっと幻であると思っていたのに。
声だけしか知らなかったけれど。姿を見たこともなければ、その名前を聞いたこともないけれど。
魔王さまなのに、傍にいてくれたの?
距離はあっても、目が合うのが分かった。彼とは不思議なことばかりだ。
彼は静かに、私を見ている。
ありがとう、とふわりと笑えば、遠い紅の目がやわらいだ気がした。