01

城に近い街へ行こうとしていたはずた。
眼前に広がる光景に、アイシャはその真紅の目を瞬かせた。

自分を取り囲み、歓喜の声を上げる人々。皆が一様に揃いの白い衣装を身にまとっている。
ぺたりと地に腰をつけている自分の下には、緻密に描かれた魔導陣。
石造りの広い部屋は松明の灯に照らされているというのにどこかひんやりとしている。窓はない。

なるほど、とアイシャは口の中で呟いた。
彼らは何らかの団体であり、何かを魔導陣を用いて呼び出そうとしていた。その魔力が、時を同じくして同様な魔力で移動しようとしていた自分と呼応してこちらに引っ張られたらしい。
それにしても随分と手が込んだ大きな魔導陣だ。大げさな儀式めいたこの場で、彼らは一体何を呼び出そうとしていたのか。

白く細い指で魔導陣をなぞるアイシャに、白い服を着た人々の後ろから1人の男が近づく。金髪碧眼の見目麗しいその男は、引き締まった体を深緑の軍服に包んでいた。軍服につけられた金の装飾や勲章がきらめく。

「ああ、よく我らが元へ来てくださった!麗しき神子よ!」

そう言ってアイシャの前に片膝をつく男。言葉通り、その顔にあるのは喜びと歓迎の笑みである。

「神子…?」

小さく反復したアイシャに、男は精悍なその顔に浮かぶ笑みをますます深め、そして力強くうなづいた。

「困惑なさるのも無理はない。しかし貴方は紛れもなくこの魔導陣が導いた神子であるのだ。人の子でありながら神に愛され、そして我々を魔の手から助けてくださる御方だ。」


神子。それが何を指すのかアイシャは聞いたこともなかった。
ただし、自分ではないことだけは確かだ。彼らの召喚は失敗であり、その失敗に彼らが気づいてすらいないのはとんだ喜劇的悲劇である。

魔導陣と自分の魔力が混線したのなら。
自分の目的地に飛ばされた者こそが、貴様らの望む神子だろうよ。


だがアイシャがそれを口に出すことはない。
彼は静かに笑みながら、目の前に差し出された男の手をとり立ち上がった。



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