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退屈だったから。

理由はただそれだけだった。

城での生活に不満を持ったことなんてなかった。だけれど大好きな彼が眠ってしまっている今となっては、城の中で繰り返す日々は退屈でしかたない。
だから、外に出て遊ぼうと思った。城の防壁の外、城下町の外、そしてもっと先の外の世界へ。



「いけません、アイシャ様!」
「ちょっとだけだってば。あいつが起きる前に帰る。だから、ね?」

いつも冷静なバーグの慌てふためく姿が可笑しくて、アイシャはくすくすと笑いながら小首をかしげた。
光を弾く白銀の長髪が、透き通るような白磁の肌をすべる。弧を描く唇も、桃色に色づいた頬も、いたずらそうな真紅の瞳も、すべてが輝いているかのように美しい。
少年と青年のちょうど狭間な頃合いの彼には、純粋な無邪気さもほの暗い妖艶さも見てとれた。

「ご容赦を。せめて領土内にしてください」
「えー、どうしよっかなあ。」

ふふ、と笑うとアイシャは少しだけ目をふせた。長い白銀の睫毛が影を落とす。笑みを浮かべたままの口元が、いびつな形にゆがんだ。

「退屈なの。だから僕は外へ行く。」

静かなその声は背がすくむほどの威圧を含んでいて、バーグに口を閉ざさせる。宰相である自分はもちろん、あの方以外の誰も目の前の麗人を従え留めさせることはできないのだ。
圧倒的な力の差に、己の本能が警鐘を鳴らす。歩き出すアイシャの細い背中をただ見送ることしかできなかった。



退屈だったから。
理由はただそれだけだ。
抜け出した城を振り返って、ひとつ溜息と共に悪態をつく。


いつまでも寝てるからだよ、ばか。


――――Sleeping Darling




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