普通なら恥ずかしがることも

【幼馴染組相手の女の子で、幼馴染設定がいいです…!
エレン、アルミン、ミカサ…皆と仲良しのほのぼのがみたいですっ】



 104期生の中でもっとも美しいのはミカサだ。ジャン・キルシュタインは出会った時からずっとそう思っていた。彼女の風になびく黒髪は艶やかでさらさらと軽く、訓練兵全員が使っているであろう石鹸の匂いだって、心なしかミカサだけはとてもいい匂いがする。などと食堂でこっそり男どもに向けて語っていたのだが、「主観が入りすぎている」と遅れてやってきたライナーに言われてしまった。
 じゃあライナーはどうなんだよ、そう思ったのは一瞬だけで、ジャン含むこの場に居た全員が即座にクリスタのことを想像したに違いない。

「じゃあさ、ナマエはどうだよ」
「ナマエか……」

 コニーが出した名前に反応して、寄せ合った顔をいったん離す。食堂を見回すと出口付近でいつも通り、ナマエはエレン、アルミン、ミカサと食事をしていた。エレンが落としたパンくずを机の端に集め、中身の減ったアルミンのコップに水を注ぎ、食べ終わったミカサの皿と自分の皿を重ねてにこにこしながら話をしていた。

「いいよね……」
「うん、いいね……」

 しっかりもののマルコと、恋愛沙汰なんて話をしなさそうなベルトルトがしみじみ呟く。即座に、こいつらは母性あふれる女がいいのだなと全員に認識された。
 ジャンにとってナマエという女の子は、ミカサと死に急ぎ野郎とその金魚のフン・アルミンたちの幼馴染である、ということくらいにしか思っていなかった。ミカサにばかり目が向けていたが、彼ら四人を見ているとどことなく仲が良い雰囲気が伝わってくるし、個々がそれぞれを想い合っているのが分かった。ミカサは自分の中でエレンをトップにしているように見受けられるが、アルミンの事もナマエのこともしっかり見ている。個々のストッパーになっているらしいアルミンは、幼馴染の人間関係が円滑に進むよう気を配っている。なんでもかんでも突っ込んでいってお子さまなエレンだって、……いや、あいつは考えていないか。他の三人へおんぶにだっこで、あいつは幼馴染がいなければ野垂れ死にしそうな感じだ。

「ぼく……この間ナマエにハンカチ貸してもらったんだ」
「なにっ」
「ナマエとぶつかってね、お水がぼくの服にかかっちゃって。いいよって言ったんだけど……すぐ乾くよってね、言ったんだけどナマエがいいからちゃんと拭いて!って」
「ああ、あの時か」

 ベルトルトがぽつりぽつりと話しだしたその内容に反応した、コニーの背中をはたいて黙らせる。お前は何かと声がでかいんだから気をつけろと、コニーは俺だけじゃなくライナーにも怒られてやがった。
 ライナーには覚えがあるようで、詳しく思いだそうとしているのか宙に視線をやっている。

「あれだろ、お前がナマエに押し倒されたやつ」
「はあああ!?」
「なんだって!!」
「まじかよ!!」
「うわああああライナーなんで喋っちゃうんだよ!」




「なんかあっち元気だねえ」
「元気っていうかうるさいだけだろ」
「……人参も、ちゃんと食べて」
「ううううるさいな!後で食べようと思ってたんだ!」
「そう言っていつも残しているよね、エレンって」

 アルミンとミカサが指摘したように、エレンの皿を見てみると端っこにころころと人参だけが避けてあった。ミカサみたいに嫌いなものを先に食べてしまえばいいのに。ぎゅっと顔をしかめて水で流し込むよりは、嫌いなものを食べてその後に美味しいものを食べれば楽なのになあ。
 机の端に置いていたポーチを手に乗せ、がま口の金具部分を外す。薄い紙で包まれた砂糖菓子をあるだけ出すものの、先日のお休みの日にお出かけをしていないから3つきりしか入っていなかった。苦手な人参をにがい顔で食べきったエレンに一つ、お皿を重ねて片付けようとしているアルミンに一つ、飲み物をとって来てくれたミカサに一つ。

「ナマエ、君の分は?」
「私のはいいの。みんなにあげたいんだから、私のはいらないもの」
「……」

 包みを剥いで口に放り込もうとしていたエレンがぴたりと止まってしまった。じっと手に持った砂糖菓子を見つめ、両手で持ったかと思うと、ぐににと割ろうとしている。

「エレン、手の熱で溶けちゃうよ?」
「あっそれはダメだ……」

 ぐにゃりと曲がった砂糖菓子をじっと見つめ、半分かじり、エレンは残りの砂糖菓子を私に差し出した。首をかしげる私に手を突き出す。ん。……ん!と、これは受け取るまで差し出してくるやつだ。
 昔エレンと花冠を作った時のこと、慣れていないエレンは頑張って二つ作ったのだが、そろそろ帰らないとカルラお母さんに怒られちゃうということで、私たちは腰を上げた。その二つはミカサとアルミンにあげるのだろうと思っていて、目の前に差し出された花冠の意味が、私は分からなかった。「あげる」とも「ナマエに」とも言わず「ん」としか言わなかったので、真意をつかむのに時間がかかった。その間ずっと、エレンは花冠を差し出したまま「ん!」と言い続けていたのだが、今のこれはまさにそれだ。
 手のひらの砂糖菓子をつまみあげると、エレンは満足そうに笑った。

「はんぶんこな」
「えっ」
「……ナマエ、私ともはんぶんこ」
「ええっ」
「じゃあ、僕ともはんぶんこ」
「アルミンまで!」

 私の幼馴染たちが可愛すぎる。綺麗に割れたらしいミカサの分と、エレンと同じくかじって分けたアルミンの分が、私の手のひらにころりと乗せられた。手の熱で溶ける前に、一番溶けかかっていたエレンの分を口に入れる。

「ナマエ、うまいか?」
「うん、おいしい」
「へへ、俺もうまい」
「死に急ぎ野郎立てコラァ!!ミカサだけじゃなくナマエにまで!!」
「なん、なんだよ!」



いずみさん、リクエストありがとうございました!

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