100回目

【背が小さい主人公のお話でお願いいたします
お相手はリヴァイがいいです!】



 初めてこの人に会った時、なんとなく既視感を覚えた。むかし民衆誌で連載していた漫画のキャラクターかもしれないし、国民的アニメ映画のキャラクターかもしれない。でもどれもいまいちピンとこなくて、結局はまあいいかいつか思い出すだろうと結論付けて、それで終わった。



 いくら壁の中は安全で、ある程度の土地が確保されているとはいえ生物の繁殖には限りがでてくる。そのくせヒトの数は増えるばかりで、未開拓の土地へは貧しい階層の人間が回されるばかりである。金が無いなら開拓民に、親が居ない子どもも開拓民、何かしらの庇護が少ない者ほど貧しい生活を強いられているこの世界。弱者には生きづらいシステムである。

 あえてこの生活を望んでいる者もいたが、私は嫌だった。

 両親が下層区へ働きに出ていったその日、巨人が壁を破ったため王政府がシガンシナ区とウォールマリアを放棄、結局二人は帰ってこず、私は二度と両親に会うことはなかった。私が調査兵団に入ることを、最初は反対していた父と母。最終的には認めてくれたけれど、くだらないことで口げんかばかりをしていたのだ。もっと感謝の気持ちを伝えておけばよかった。好きだって、愛しているよって、もっともっと言えば良かった。
 調査兵団に入りたいという気持ちはより大きくなり、今期調査兵団を志願した訓練兵は私の他に数名。例年よりも少なかったようだ。憲兵団や駐屯兵団を志願した同期からは、「壁の外に出るなんてどうかしている」と言われるが、私は好奇心を刺激されないのかと言ってやった。





 そうして入った調査兵団で、私は夢を見た。この人が居れば調査兵団は強くなる、壁外に何があるかの解明、そして巨人だって屈服させられるんじゃないかって。

 ちょこまかした動きと小さい身長、軽い体重により、私は巨人を倒す時は全身を使わないと肉を削げない。父も母も普通に身長はあったのになぜ私だけこんなに小さいのだ。訓練兵時代には同期に可愛がられたのだが、それは調査兵団に入団してからもあまり変わらなかった。初対面でご挨拶をした時、リヴァイさんは少しばかり目を開いたかと思うとすっと手を上げ、驚いて目をつむる私の頭を優しく撫でた。「リヴァイさんまで可愛がってる!」「やるなあの新兵!」と騒がれたのは未だ記憶に新しい。


 就任したばかりのエルヴィン団長考案、長距離索敵陣形のおかげで全体の生存率が飛躍的に向上した。主に先頭で索敵を任されている私は、大柄な班員に囲まれながら後ろを走るリヴァイさんのことが気になっていた。

巨人に対しては鬼のように怖いリヴァイさんは、とても義に篤く仲間の事を大事にするお人だ。そして周りの人が言うには特に私は可愛がられているらしい。今まではみんなが言うほど実感をしていなくて、そうなのかなあとぼんやり思っていたが、出立前の厩舎の前でリヴァイさんに声をかけられることで意識は変わる。一言二言やり取りをしたあとじっと黙り込んでしまったリヴァイさんの顔を窺おうと近寄ったところ、腕を掴まれ抱きしめられた。髪の毛をポニーテールにしているため、容易にうなじに手が添えられてしまい、むきだしの耳にリヴァイさんの息遣いが届く。彼の手が背中に回り、私と彼との隙間を埋めるようにぎゅっと抱きしめられる。こういうことをするような仲になった覚えはないが、どうしてか「こう」あることは普通の事のように思えた。
 「生きて帰れ」「俺の事はいいからお前が生きろ」と、熱っぽく囁かれたのだが、いつも生きて帰っているんだけどなあ。

 

 不思議に思いながらも進撃した今回の調査は、今のところは順調に索敵が機能している。いつもならどこそこの班に打撃〜などのよろしくない伝達が来るところだ。そうして油断したのが悪いとでも言うように、突如それは起こる。

 突然左から上がった黒い煙弾、それに気付いた時には既に奇行種が目の前にいた。馬を駆り、奇行種の足元を潜り抜ける。奇行種はリヴァイさんに向かって走っているようだ。うなじにアンカーを突き刺し立体機動に移るも、奇行種は反応する様子が無い。いける。ワイヤーを巻き取りブレードを構えた。

「ナマエよせ!!」
「えっ?」

 奇行種に近づいていく私にむけて、リヴァイさんがそう叫んだ。ぐりんっと振り返った奇行種の目が私を捉えた。身体に衝撃を受け激痛が走り、私の意識はそこで途切れる。






 最初は隊列・次列の伝達だった。伝達途中に奇行種の煙弾を打ち上げたナマエはそのまま奇行種に殺されたのが彼女の最期。次も次列の伝達。その次は運搬護衛、そしてその次は索敵支援、荷馬車護衛班。ならばと今回はナマエを初列索敵班にと配置してもらったがそれもだめだった。
 どうすればナマエを救えるのか。幾度となく同じ季節をやり直しさせられているが解決策が分からない。ナマエが死ぬとその瞬間、自分の足元から崩れるように力が抜けてしまう。一度目の時は訳が分からないまま二度目の世界に立っていた。繰り返していると気付いたのは三度目で、いずれもナマエの最期は見ていない。
 今度こそ、今度こそと繰り返してきたが、また失敗した。繰り返す中でのナマエは、俺との関係を覚えてはいないので、一度目のような笑顔は俺に向けられない。何度か想いを通じあわせることも出来たのだが、その度に名前は俺をかばって死んでしまう。自分が生きているより、人類最強と名高いあなたが生き残った方がよいと言ってナマエが息を引き取れば、また足元は瓦解する。
 横たわるナマエのそばにしゃがみ込み、顔に付いた血を拭ってやる。下半身があらぬ方向へ曲がってしまっているので、間違いなくナマエは死んでいる。今回は話も出来ねえのか。
 どすどす大きな音を立てて、こちらに走ってくる奇行種へと身体ごと向く。ブレードの柄を握り直して削いでやろうとするのだが、ぱきぱきと枯れ木を踏んだような音がしたかと思うと景色がにひびが入り、砕けて割れた。後ろを振り向くとナマエが薄く光に包まれ、消えていくところだった。

 もう一度、やり直しだ。



ありささん、リクエストありがとうございました!

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