かいがいしい兵長

 取り急ぎ女児用下着とワンピースを買ってこいと、ハンジを部屋から蹴りだした。「ねえねえナマエ、ピンクがいい?水色がいい?それとも赤いっちゃう?あ、ねえリヴァイ、君は何色が好きなんだい?」などと喚いていたが、とりあえずなんでもいいから買ってこいとリヴァイは怒鳴りつけた。イライラしたまま、扉を叩きつけるように閉めて部屋に向き直ると、ナマエはちょこりとソファに座っていた。短い脚を時折ゆらゆらさせているため、シャツの裾がふわふわ動いていた。

 幸いなのはナマエの記憶までもが逆行していないことである。記憶・知識は縮む前と何ら変わりないがすこしばかり舌ったらずな喋り方になるのがナマエは気に入らないようだ。うまく発音できなかったらその度に顔をくしゃりと歪めていた。まあそれもリヴァイが頭をぽんぽんと叩いてやれば機嫌が直るのだが。

 きゅるんと小さく鳴いたナマエのお腹の音は、隣に座るリヴァイにはっきりと聞こえた。机から残り少ないシガールを取ってやると、ナマエは両手でしっかと持ち、さくさく食べ始める。まるで小動物のようだ。

「ナマエ」
「んぐ?」
「いくつくらいだ」
「むぐむぐ……!」
「食ってからでいい」
「(こくり)」

 嚥下を終えたナマエが言うには、おそらく3歳くらいではないかということであった。リヴァイがナマエと出会った時には、ナマエは既にすらすら喋っていたし、ここまで身長は低くなかった。ぷくぷくしたほっぺたが、シガールを頬張ることでさらに膨れていく。そっと頬を押してみると柔らかな弾力でもってリヴァイの指を押し返した。ナマエの胸とはる気持ち良さだった。
 黒猫のカップに砂糖を入れて念入りに溶かす。少し温度が下がっているので溶けにくかったが、カップの底のざりざり感が無くなったのでティースプーンを抜いた。
 ほぼシャツに埋もれているナマエをそっと抱える。尻が覗いてしまわぬように腰から尻、ふとももへとシャツを身体に沿わせ、座らせた。子ども体温というやつだろうか、とても温かく、膝にかかる重みがちょうどよかった。
 背筋をまっすぐに正して座り直し、ナマエの頭を自らの胸元へ寄りかからせる。ずり落ちてしまわぬようにほんの少し足を開き、その隙間にナマエの尻が収まるよう調節した。

「りばいさん?」
「あ?一人じゃ飲めねーだろ」
「ひとりでできまつ」
「持ってみるか?」
「あい!」

 予想通り幼いナマエには、中身の残ったカップは重たかったようだ。ぷるぷるしながら数秒保ったかと思った次の瞬間には、リヴァイにカップを渡していた。

 こうしてリヴァイ手ずから飲み物を飲ませ、菓子を手渡し、口元を拭いてやり、眠そうに目をぱしぱしさせるナマエの身体を揺らす。うとうとし始めるころにはナマエの身体は横を向かされ、リヴァイの胸にほっぺたを預ける状態になっていた。硬い胸板にぺちょりとくっついたナマエの頬はとても柔らかかった。




 すっかり寝てしまったナマエをそのままに、リヴァイはちらりと横目で執務机を見遣った。まだ仕事が残っているが、すぴすぴ気持ち良さそうに寝ているナマエを起こすわけにはいかない。背もたれにしっかりと寄りかかってから、ナマエを抱え、クッションをソファの端っこに移動させた。ぽふぽふと叩いて位置を整えると、ナマエを抱えたま背もたれを滑り落ちていき、クッションへと頭を着地させた。寝転がったリヴァイは、自身の胸を枕にするナマエから手を放す。これで支えずともナマエが落ちてしまうことはないだろう、寝返りを打たない限り。
 そう思った瞬間ナマエがころりと寝がえりをうって仰向けになろうとしたのであわてて捕まえた。もう一度ころりと転がしてうつぶせにさせる。うつ伏せになったナマエの尻の下で手を組んで固定すると、ナマエむずがりだしたので片手を背中に移し、軽くぽすん、ぽすん、と叩いてやる。腕をリヴァイの背中にまわしてしっかと抱きつこうとしたらしいが、短い腕では回りきらず、服をきゅっと握るしかなかったようだ。そうしてふにゃりと笑い「へいちょ」とリヴァイの胸へぐりぐり頭を押しつけるとナマエはまた眠りについた。

 なんだこれくそかわ。


 やはり子どもなので、もとの成人サイズの時よりだいぶ軽い。胸の上に乗せているとほどよい重さと温かさでもって、リヴァイの眠気を刺激した。背を叩いてやっているナマエのすぴすぴという息遣いと、遠くの喧騒がちょうどよい感覚で耳に届く。連日の仕事の疲労がじわじわとリヴァイを襲った。
 まだクソメガネ帰ってこねえしいいか……うとうとしつつそう結論付け、リヴァイも寝ることにした。



 取り急ぎサインをもらってこいと渡された書類は提出期限がギリギリで、
行き先はリヴァイ兵長となっていた。こんなときナマエさんのお菓子とお茶があれば兵長の機嫌を損なわずに済む。そう思ったエレンはぱぱっとナマエを探したが見つけることが出来なかった。しょんぼりしたままとぼとぼ書類を持って行き、兵長の部屋のドアをノックした。しかし返答はない。数度ノックをして声をかけても反応が無いので留守かなと思いつつもドアノブを回した。

「……。失礼しまー……す」

 ドキドキしながら鍵のかかっていないドアをゆっくり開け、中を覗く。エレンはソファに横たわる人影を発見した。
 もしや兵長倒れて……!?と不安になったので急いで中に入ったところで、兵長の上にうつ伏せになって寝っ転がっている幼女が目に入った。

「っ!?……え!?」

 寝ている二人に配慮し、エレンはとっさにぱっと手で口を覆った。起こしてしまわないか不安だったがどうやら大丈夫そうだ。寝息は乱れることなく、二人ともすやすや寝ていた。
 こちらを向き兵長の胸にぺったりくっついている幼女をそっと覗きこんでみると、なんともナマエそっくりであった。部屋の中を見渡してみてもナマエはおらず、ソファ前の机にはカップが三つとお菓子の入った器があるのみ。

「……」

 持ってきた書類をそっと執務机に置いて、ブーツを鳴らさないようにそっと歩いて、そっとドアを開け閉めして、エレンはリヴァイの部屋を後にした。
 廊下を少し歩いたところでダッと走り出し、エレンは幼馴染二人のもとへ急いだ。

 ナマエさんもう子ども産んでた!!と報告するために。



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