彼女との距離感

 リヴァイが戻ってこないうちに、家具屋さんが素早いことに商品をささっと持って来てくれた。トレーとケースはクロスをひいた机にまとめて置いてもらい、ミニ机は店の中まで持って来てもらった。
 飲み物を買って帰って来たリヴァイは、スタバでいえばグランデサイズのカップを手にしていた。

「どうしたのそれ」
「もらった」
「……誰に?」
「ドリンク店のおばさん」
「ああ、スポーツドリンクもどきの」
「もどきの」

 リヴァイはこくりと頷きながらカップをミニ机に置いた。座ったままミニ机を拭いて、椅子の上からパンの入った袋を移動させる。カップを机に置くと、いわゆるストローのようなものがささっていたのが分かった。2本。同じカップで飲むんだな……ごくり。

 パンの袋を開けてベーグル、カステラ、お手拭きを取りだした。野菜と肉を挟んだもの・果物を練り込んだもののベーグルをひとつずつと、いたく気に入ってくれたカステラ、そして必需品のお手拭き。私たちは露店の外を向いて隣同士に座っている状態で、風がそよぐ度にリヴァイの方からは石鹸の香りがした。この間アルコールと消毒の話をしてからというもの、リヴァイは清潔を心がけていた。会う度会う度、いい匂いがするなあと思うのだ。
 お手拭きで念入りに汚れをふき取った後、ミニボトルからアルコールを少量手に取る。少し多めに出てしまったので、手のひらを上にして待ちかまえていたリヴァイにおすそ分けした。

 ご飯を食べた後は二人で露店の掃除をした。もともとある程度は綺麗だったがやはり食品を扱うとあってはより綺麗にすべきだろうということである。綺麗すぎて困ることはないしね。直径が異なる棒に布を巻き付けたものは、あまり出番がなかったため、まとめてひもで束ねておいた。家では大活躍なんだけどなあ。
 二人して背の届かないところは椅子に乗ったりして、どうにか清掃をやり終えた。




 翌日、さっそく露店でパンを売り始めた。私が来た時にはすでにリヴァイは来ており、机の上にトレーを並べてくれていた。それだけでなく、購入後パンを入れてお渡しする袋にかさかさと折り目をつけていてくれている。あとはこれを貼りつけて行って、底にマチを付ければ良い。折り目はきっちりと揃っており、糊づけする箇所も歪みなくまっすぐである。

 私が来たことに気付くと袋作りを中断し、パンの陳列を手伝ってくれた。ケースにアルコールを噴霧……というか散布して白い布を敷きつめ、その上にもアルコールを撒く。そしてその上に種類ごとにパンを並べていくのだが、この時も列の歪みなくびしっと並べて行ってくれるので頼もしい限りである。陳列はリヴァイに任せ、私は椅子に置いたななめかけかばんから旗を取りだした。

 駅伝の時に観客が振っているようなミニフラッグ。一般的なパンの絵をちまちま刺しゅうし、様々な色の糸で模様を作ったものだ。少し大きめなので、竹で作った筒に差し込んでみても布の重さでぽろりと落ちてしまわないよう柄の部分を長めにとった。柄の途中には十字になるように枝がくくりつけられており、竹の筒にすっぽり入ってしまわないように返しのようなものをつけた。竹の筒は下から柄がはみ出るようになっているが、これは仕様であり、はみ出した柄は穴があけられているので地面に置いた重りとくくりつけられるようになっているのだ。
 そして光に反射してキラキラするように、またシャラシャラと音が鳴るように旗の下の部分には小さい綺麗な石が連なっている。昨日左隣の小物屋さんで買った髪紐を利用したのだ。
 通りに面した露店の柱に、パン屋さんだという目印になるをくくりつけようと思い、椅子をえっちらおっちら運ぶ。

 まずは竹の筒から固定する作業からだが、なかなか背が届かず四苦八苦していたら「……貸してみろ」と言ったリヴァイにかすめ取られる。彼は柱を傷つけることなく見事に筒を取りつけた。旗を渡して差し込んでもらう。風に揺れた旗は涼やかな音を響かせる。
 落ちることなくゆらゆらと揺れているのでとりあえずは成功と言ったところか。雨風と日光にさらされることで劣化していくはずなので、逐一気にしておいて、ぼろくなる前に変えようと思う。

835年、基盤が整い新たなスタートを迎えた夏であった。

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