とくに理由の無い好奇心が彼女を襲う――!

 ハンジ・ゾエが巨人に対する愛で溢れているのは周知の事実である。さらに様々な器具、薬品を使っていることも。それらの一部は経費で落ちているため、ハンジは一月に一度は研究の成果をレポートしなければならない。研究に最もよく用いられるのは繁殖力が強く、成長の早いマウスだが、時に安全性の確認がとれたものに関しては対人で利用することもある。ほぼ自分で試すのだが、今回は少し冒険してみたくなったのだ。
 リヴァイのお手伝いでハンジのもとを訪ねてきたナマエが、書類ついでにとお茶菓子を差し入れてくれた。これはチャンスだ、ハンジはそう思った。

「いいところに来たねナマエ!ちょうど休憩にしようと思ってたんだ。コーヒー淹れていくからさ、リヴァイの部屋の机の上、片付けておいてくれない?」
「いいですね。あ、でももともと片付いていますし、私がコーヒーお淹れしてきますよ」
「いいのいいの!あ、じゃあさ、これ持って行っててくれる?」
「リヴァイ宛てですね。……はい、記入確認しました。では先に行ってお伝えしておきますね」
「うんよろしくー!」
「お待ちしております」

 何とかスムーズにナマエをリヴァイの部屋へと戻すことに成功した。さっそくハンジは例の液体が入った小瓶を持って給湯室に駆け込み、コーヒーを三つ淹れる。

 リヴァイ用のカップは決まっていて、ナマエが選んだそれである。可愛い黒猫の描かれたカップをあの仏頂面、そして無表情の男が口に近付けるだけでハンジは笑ってしまう。ナマエは可愛いといってリヴァイが使用しているところをこぞって見たがるのだが、ハンジには分からない。面白さしかないよね?エルヴィンにそう尋ねてみるも彼からは苦笑いしか返ってこなかった。
 また、ナマエ用のカップもいつしかリヴァイが買って来たものだった。リヴァイのとは色違いの猫が描かれたもので、二つ並べると猫同士の尻尾でハートマークが現れるようになっている。それを知っているナマエは照れながらも嬉しそうに手に包み、リヴァイにお礼を言っていた。ちなみにリヴァイは未だにハートマークが現れることを知らないそうだ。ハンジはそれをナマエから聞いていた。

 猫の顔をこちらに向け、後ろから見るとハートマークが見えている状態にして、トレイに置く。自分のカップはトレイから少し遠ざけ、懐から例の小瓶を取り出した。ふたをきゅっと開けると、ふたに付いた突起に液体が少し付着された状態になる。垂らさないようにそっとカップの上に動かしてから、横に傾けたふたを縦に戻す。ぽたりと一滴、コーヒーに落ちた。

 よし、あとはこれを飲ませるだけ。楽しみだなあ〜どんな感じになるんだろ!もうワクワクしちゃうよ!

 鼻息荒くトレイに自分用のカップも置いてから、コーヒーを持ったハンジはリヴァイの部屋へと向かった。
 三毛猫が描かれたカップと黒猫が描かれているカップを並べたトレイに、自分のコーヒーも置く。ナマエからもらったお茶菓子を袋から器に移し、食べやすくしたものも一緒に置いた。
 無味無臭の薬品を作ったのだから当然だが、三つ並んだコーヒーは色も匂いも全く一緒だった。リヴァイはブラックだったはずだが、ナマエがどのくらい砂糖とミルクを入れるのか分からないので、ハンジは適当に持って行くことにした。


 両手で運んでいたトレイを左手に持ち、右手でコンコココンとリズムよくドアをノックする。すぐに内側からドアは開き、にっこりとほほ笑んだナマエがハンジを迎え入れた。机は綺麗に片付いており、足を組んでソファに腰掛けた男の前にトレイを置くと、ハンジに続いてナマエもソファに座った。ナマエが黒猫のカップをとり、ミルクを少し多めに入れてからリヴァイに渡す。おや、とハンジは声をもらす。

「リヴァイ、ミルク入れてたっけ?」
「お腹が空いてらっしゃるようなので、ブラックは胃に良くないかなと思いまして、そういった時はミルクを入れさせていただいてるんです」
「へえ〜、そうなの」
「兵長、簡単ですがサンドイッチ作って来たのでこれでもお食べください」
「ああ、すまんな……」

 お手拭きが出てきて、サンドイッチが出てきて、そのサンドイッチは手が汚れないよう紙で包んであって、なんともかいがいしいことではないか。実験で徹夜した時なんかは風呂やご飯は二の次になる。そんな時にナマエがいれば最高なんだけどな。ハンジは一家に一人、一ナマエを妄想した。

 サンドイッチを左手で持ち、無心で頬張るリヴァイはどことなく疲れているようで、空いた片手にナマエがハンドマッサージを施していた。お茶菓子をもふもふしながら話す巨人の内容に、面白い観点で意見をくれるからハンジはナマエのことをとても気に入っている。巨人は玉ねぎで涙を流すのか、という疑問を出してくれた時は、ぜひとも試したい衝動にかられたものだ。

 リヴァイはコーヒーも飲まずに、一切れ目のサンドイッチを食べつくした。ハンドマッサージが終わったリヴァイの右手は、ナマエの膝に放り出されたままだったが、ゆっくり動いてカップを手に取った。ミルクでまろやかになったコーヒーを飲んでから、もう一切れ手にとってまたもぐもぐし始めた。

 お茶菓子はサクッとした食感の筒みたいな形をしたクッキーだった。白っぽくてキツネ色をしたもの、緑色のもの、茶色のものと色々ある。ナマエが言うにはシガールというらしい。食感が癖になりそうなお菓子だ。
 緑色が抹茶味で、茶色のものが紅茶味で、もっと茶色をしたものがカカオ味なのだと、食べながらナマエが教えてくれた。サンドイッチを食べ終わったリヴァイもサクサクサクサクと食感を楽しみながら食べていた。


 いくつかシガールを食べたところで、ナマエがブラックのままでコーヒーを飲んだ。三毛猫がハンジの方を向いて笑っている。

「はあ……。お茶する時間も大切ですよね」
「そうだね!コーヒーにお茶菓子まであるなんてね!」
「あ、少なくなってきましたしお茶菓子追加しますね」

 そう言って立ち上がったナマエだったが、力がぬけたようにすとんとソファに座りなおした。

「あれ?なんか……」
「(ktkr!wktk!!)」
「どうした」
「力が入らな……んっ!」
「!?おい大丈夫か」

 ふらりとリヴァイの膝に倒れ込んだナマエの肩を掴むが、その肩が細く薄くなっていく。
 シャツとタイトなパンツだけだったナマエの身体の変化は、見ているだけでよく分かった。みるみる内に小さくなっていき、髪の毛がさらりと背中に広がる。パンツは脱げて床に落ち、着ていたシャツに体全体がおおわれ、シャツワンピ状態だ。ナマエはもとの身長のおよそ半分にまで縮んでしまった。

「え、ええー……?」
「いやったあああああ成功!!うわあもうナマエすんごくかわいいね!!!!」
「……おいハンジ」
「あとは経口摂取後の経過だけど大丈夫二日くらいで治るはずだよ私もそれくらいで治ったからさ!」
「このクソメガネナマエに何しやがった削ぐぞ!!」
「痛い!」
「説明しろ!!」

 ナマエの脇に手を入れて持ち上げ、リヴァイが膝に乗せようとしたが、ナマエの足から滑り落ちたショーツを隠そうとナマエが暴れたため、うっかり、ほんとにうっかり、もちもちした尻に手が触れてしまった。女児用の下着を買わなければと、その時リヴァイは冷静に思った。



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