彼女の作るものとは


 無事に契約が出来たので、ここからは疑問点を解消しようと思う。まずは月の売り上げの5%を貸出金として払うこととあるが、これはどう売り上げ証明するのかということ。この点に関してはウォール・シーナ外の人に適用されるものらしく、契約金を払っているのだからもったいない、毎日使ってやる、と思わせるためのものらしい。露店街発展のための措置だということだ。使用料払っているなら確かに毎日でも使ってやると、私なら思うだろう。そしてそのお金は全ての露店の修繕費、つまり管理費となるらしい。私みたいにウォール・シーナの人間は露店の修繕が必要になった時にだけ、多額を払えばいいそうだ。
 ウォール・シーナの人間が払う月ごとのお金は、一定の額に固定されている。そしてそのお金はお野菜店のおじさんが管理して、もしもの時にそれを使っているのだ。露店の修繕だったり、貸し出し品の点検・修理だったり。毎月これくらい、と提示された額を見てリヴァイがこんだけでいいのか、と呟いていた。私も書類を見て驚いた。日本でお店を出そうものならこれの何百倍とお金を用意しなければならないだろう。一日の売り上げにも満たない額なので、簡単に払えそうだ。このお金、有事の際に使うものだからあまり出番は無いらしい。新しく出店する店の備品をそろえる時くらいしか今は使わないのだとか。初回の支払日は次の月の第一週内とのことで、忘れないようにメモしておいた。

 注意点などを聞いていたのだが、おじさんは「まあリヴァイくんが居るから治安面は大丈夫かな」とひとりで納得していた。あとで読んでおいてねと渡された紙の束は小学生の教科書よりも薄かった。
 さらに紙の束だけでなく、女性の横顔が彫られている木の板を渡された。門に描かれているウォール・シーナだ。精巧に彫られているそれは私の手に収まるくらいの大きさであった。あまり厚くないが、五枚重ねられると少し持つのが大変だ。落とさないように両手でしっかりと持ち、そっとリヴァイに渡す。彼なら絶対無くさないはずだから。

 この札が何かと言うと、出店のための備品と交換できるものらしい。近くの家具屋さんや布屋さんで使えるとのことなので、さっそく行ってみることにした。すっかり存在を忘れていた手土産は、リヴァイがさっと渡してくれていた。




 家具屋さんで椅子を二脚をレンタルする旨と、パンを並べるケースには装飾を施してもらうことにしてこれを三つ、そしてパンを選びとってもらうためのトレーを五枚。これだけでも札は一枚でいいらしい。椅子は露店の中にあるとのことなので、二脚を超えてレンタルする場合は追加分の料金を払う手筈になっているらしい。なるほど。
 私はレンタル用の椅子の高さにちょうど良い、小さな四角いテーブルを購入することにした。パンを袋に入れたりお金を置いておいたり作業台として使うだろうという考えである。「他にも欲しいもんがあったら言ってくれよ、パン屋の嬢ちゃん!」家具屋のおじさんもお客さんだったようだ。

 次に布屋さんでテーブルクロスと、ケースに敷く用の白い布を三つ分、そして揃いのエプロンのための焦げ茶の布を切ってもらった。ここでも札は一枚でいいらしい。リヴァイから受け取って一枚お姉さんに渡すと「パン楽しみにしてるわ」とのお言葉をいただいた。ありがたいことです。
 ふと見ると布屋さんの端っこで綺麗めの布の切れはしがたくさんセットになって売られていた。ふむ、端切れセット……。
 あんまり柄が被らないように選んで、このセットを3つと、布の色に似ている糸をいくつか購入した。さっきのと一緒にまとめておくけど?とお姉さんが言ってくれたのだが、これは自腹で払いたい。せっかくタダでいただける機会だったが丁重にお断りした。


 椅子とパンの陳列ケースはこれから家具屋さんが運んでくれるということなので、さっそく露店へと向かった。端切れと糸以外はリヴァイが持ってくれているのでとても楽だ。途中お魚屋さんで魚と貝を買ってゆき、露店へ着いたはいいが土埃やらなんやらで汚れているだろうと思ったので、いったん家へと帰ることにする。リヴァイにはリビングでおばあちゃんとお茶をしていてもらい、私は掃除道具をそろえに奥へ下がった。
 雑巾とアルコール、布を巻き付けた棒(隙間の汚れを取るのに最適なのだ)、はたき、そして口を覆うスカーフをリヴァイの分もタンスから取りだして小さなかごにつめた。  キッチンに移動して手を念入りに洗いお昼ご飯作りに取りかかる。お野菜店に差し上げたものの残りをいくつか袋に詰めて、袋の口の部分を折り込んで端を少し折る。おばあちゃんにはふわふわパンで作った総菜パンだ。スープは朝の残りがあるのでそれを食べてもらって、軽く葉物でサラダも作っておく。プレーンのベーグルが数個残っていたのでそれを横に割り、お野菜とベーコンを挟んだ。紙で軽く包んでこれも袋に入れる。
 そうしてリビングに戻ると、おばあちゃんがくすくす笑っていた。ななめがけのかばんにパンを詰めた袋を入れながら二人に問うてみる。

「なに話してたのー?」
「何でもねえ」
「ええ?何でもないってことはないでしょうよ。おばあちゃんご飯キッチンにあるからね」
「あらありがとう。リヴァイくんとちょっとお話していただけよ。なんでもないのよナマエちゃん」
「んあー!おばあちゃんまでー!」
「いいから行くぞ。お茶ごちそうさまです」
「いいええ、お茶くらいいつでも淹れるわよ。また来てねリヴァイくん」
「はい、お邪魔しました」
「おーしーえーてーよー」
「おら行くぞ」

 掃除用具のつまったかごをスマートに奪い、リヴァイは私の背中に手をそえて外へと押し出した。押し出す力に逆らおうと後ろに体重をかけるが、その手がすっとずれて腰に回る。がしっと掴まれてそのままずるずると引きずっていくので歩きにくく、観念してリヴァイの隣を歩いた。リヴァイめ、布の束も持っているというのになんて力だ。


 露店についてみると家具屋さんはまだ来ておらず、先に雑巾でしっかり机の上を拭いてから、その上にテーブルクロスをひいた。これだけでもうお店としての体裁が出来ているような気がしてワクワクする。持ってきた掃除道具やら布やらを机の上に置いて、手の空いたリヴァイには飲み物を買ってきてもらうことにした。椅子を念入りにふきふきして、アルコール噴霧を施す。雑巾とは別に持ってきたハンカチをひいて腰掛ける。家具屋さんが来る前にお昼にしておこう。リヴァイの椅子にもハンカチをしき、風で飛ばないようにパンを入れている袋を置いておいた。

 のちのちポットとか置いて営業中もお茶出来るようにしたいなあ。一息ついたところで両隣のお店をちらりと覗くと、右隣が果物屋さんで、左隣が小物屋さんだった。あとでじっくり見よう!毎日の営業が楽しみになりそうだ。

 835年夏目前、そろそろ基盤が整う。



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