彼女との居心地の良い関係

 お野菜店のおじさんに「親御さんと……」と言われてしまった次の日、パン売りの日ではなかったが私はリヴァイに手を引かれ、お野菜店へと来ていた。札と、私が売るものの参考としてパンをいくつかを持って。プレーンのパンと、果物を混ぜて焼いたベーグルと、砂糖とハチミツを使ったリヴァイの今日のおやつ、カステラを持参した。

 家まで迎えに来たリヴァイにこのカステラの切れはしをあげると、サンドイッチ同様の表情をしていたので、来週晩ご飯を食べに来た時に一緒に作ろうと思う。卵白を泡立てるのが結構大変なので、リヴァイに手伝ってもらうつもりだ。
 フライパンで作ることのできるこのカステラは、卵を多く使った方が香り高くて美味しい。日本であったなら千円以上のお買いもので卵1パック1円とか、安価で手に入りやすいものなのだが、ウォール・シーナではそこまで安いものではない。
 パン売りで得た収入でいろいろと好きなもの、欲しいものを買いなさいねと、おばあちゃんが言ってくれるため、嗜好品を買ったり、お菓子を作るためのお砂糖を買ったりするが、一番多いのは小麦粉やイースト、牛乳などのパンに使う材料、そして晩ご飯の食材だ。生活費の足しになるよう始めたことなので、そこは譲らない。欲しいもの……。おばあちゃん、ナマエはお米が欲しいです。

 明日の売上の少しを、卵を買う資金としてもらってもいいか、おばあちゃんに聞いてみよう。そしておばあちゃんの得意なお菓子を教えてもらおう。すげなく断られたお野菜店に行くと言うのに、私は強気だった。リヴァイがいるもの。昨日は言えなかったこともきちんと言える気がする。



 到着したお野菜店の周りにはぱらぱらとお客さんが居て、奥さんとおじさんがせかせか働いている。お客さんの入りが落ち着くまで待とうとリヴァイに言い、近くのお魚屋さんで今日の晩ご飯になりそうなものを見ることにした。

「リヴァイ、今日ご飯食べてく?」
「迷惑じゃなけりゃ」
「いいに決まってるでしょー。変に遠慮しちゃって。白身魚でムニエルにしようと思うんだけど」
「ああ、いいんじゃないか。トマトなかったろ、後で買うぞ」
「トマトのソースが良いのね。じゃあ昨日買った玉ねぎ刻んで、トマトも刻んで……」
「ドレッシングみたいなソースだろ。俺が作る」
「ありがとう、お願いする」

 後で買いに来ますとお魚屋さんの奥さんに伝えると、「明日もパン楽しみにしてるからね!」と嬉しい事を言ってくれた。買う予定の白身魚の他に、じゃらりと網につめられた貝をおまけとして付けてくれる。あさりみたいな味がする貝だ、酒蒸しにしようかな。パンはあるし、ムニエルに添えるための野菜は何にしようか。家にはまだアスパラガスがあったしそれを軽くソテーして、こしょうをきかせた粉吹き芋と……。

「リヴァイ、スープいる?」
「お前の作るもんだったらなんでも食う」
「えー。参考になんないー」
「ああ?ならあっさりしたやつ」



 さて、本日のメインは街を散策することではない。露店契約のために街へ赴いているのだ。札は来る途中で取ったし、パンはリヴァイから預かった。いざ!とお野菜店へ足を踏み出し、声をかけようとしたところで先に奥さんから声を掛けられた。

「ナマエちゃん!いらっしゃーい。明日はパンの日ね。新しい味とか出さないの?おばさん楽しみにしてるんだから」
「あ、あのっ」
「あらまあリヴァイくんも一緒なのね?やだもうリヴァイくんったらナマエちゃんのこと好きなんだから!二人がね、兄妹じゃないって聞いた時はおばさんほっとしたのよ。あっこれは魚屋さんとこの奥さんと内緒のお話だったわごめんなさいねえ」
「あのっ!すみません!これを!」
「あらあその札。ナマエちゃん昨日来たんだって?うちのから聞いたのよ。そしたら追い返しちゃったって言うじゃない。おばさん叱っといたから!あんたが今食べてるそれはその追い返した女の子が作ったのよ!って」

 あんたー、パンの女神のナマエちゃん来たわよー!
 パンの女神と修飾された私の名前を聞いて、店の奥から品出しをしようとしていたおじさんがすっとんできた。

 昨日はすまなかったな、まさかお嬢さんがいつも食ってる美味いパンを作ってたとは!から始まったおじさんの褒め言葉は、お野菜店のお客さんまで巻き込んで、私の顔を真っ赤にさせるくらいには続いた。ウワアアアアと顔を手でおおったあたりで、リヴァイの手が肩にぽんと置かれる。見上げると周りの人の言葉に得意げに頷いているリヴァイがそこにはいた。


835年夏目前、パンの評判を確認できた日であった。

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