後者だろ
 リクエスト「学園の狼がヒロインに甘えてる姿を目撃。獣verになって狼に威嚇しつつヒロインに甘える。(略) 獣によるヒロイン取り合い話」より。
 本編の伏線をここでも拾ってみたり。竹谷は苦労人です。
 題は三郎の言葉です。お気づきになられましたか?(^▽^)





 六年生のみょうじ先輩は動物に懐かれやすい。薬草採取に出かけた時、実習中など、小動物にまみれながら帰ってくることが多々あるのだ。兎さんやリスさん、にゃんこ、小鳥。小動物のオンパレードで、あれはちょっと羨ましい。俺だって学園飼育の動物とは付き合いが長いから懐いてくれているが、出会ったばかりの動物とは交流を経ねば仲良くなれないのだ。しかしてみょうじ先輩のすごいところは、動物と出会う=即仲良しという構図にある。というかむしろ、動物を誑かして……いるようにも……。
 みょうじ先輩が一番愛している動物と言えば狼だよなあ。学園の狼は気性が荒いため上級生が飼育を担当しているが、みょうじ先輩は三年生時から狼と仲良しだった。保健委員会の合間に飼育小屋に訪れては狼をもふり、休日に遊びに来ては狼をもふり。生物委員会の当時の上級生は、狼とセットでみょうじ先輩を可愛がっていた。

 そんな中、七松先輩はといえば「私の方が毛並みがいいのに……!」「触るなら私のふわっふわの腹を触ればいいのに……!」などとぎりぎり歯ぎしりをしながら嫉妬にまみれているのを、飼育小屋の陰でよく見かけた。学園の狼に尻尾を触らせてもらえなかったみょうじ先輩のために、七松先輩は変身して先輩のもとへ行ってたし……。あの惚れ様は学園の誰もが、とくに生物委員会の上級生は微笑ましそうに応援していた。

 七松先輩は一年生時にみょうじ先輩に惚れたとかそんな話を聞いたけど、二人にはなかなか接点がなく、どうやってくっついたのか不思議だったのだが狼時に相当アプローチをしたらしい。善法寺先輩ら同級生も七松先輩の気持ちを後押ししていたようだし、付き合うことになって本当に良かったと思う。だって動物にまで嫉妬心を燃えたぎらせる七松先輩だぞ。もしみょうじ先輩が七松先輩ではない他の誰かと付き合った折にはどうなることかと、俺はヒヤヒヤしていたんだ。あの二人、両想いで良かった。



 さて長々と俺の独白が前置きになったが、今現在飼育小屋には狼をもふもふしている……いや、狼にもふっと包まれたみょうじ先輩が居て、生肉をギチギチ握りしめている七松先輩がその横に立っている。狼は見事にみょうじ先輩にだけまとわりついていて、少しばかり七松先輩と距離を開けようとしているのかみょうじ先輩はちょっとずつ押されているようにも見える。
 なんだあの修羅場。

 人間同士の修羅場ならば少しは見たことあるが、狼同士の修羅場は初めて見た。縄張り争いとかでもなくメスの取り合い……。飼育されているとはいえ、気に入ったメスを取りあうという野生の本能が、学園の狼にもあったんだな……!
 しかし七松先輩が黙ってその様子を眺めていて、狼たちの餌である生肉をちぎれんばかりに握りしめている。これはあいつら、詰んだな……。

「うふふ、今日はこの子たち、一段と甘えん坊さんですねえ」
「ああ……そうだな……」

 うっわあああ声のトーン低っ。
 狼たちだけでなく、隣の飼育小屋を掃除している俺にも七松先輩の殺気がビシビシと当たっている。「こいつらのしつけをきちんとしておけ」といったところだろうか。ちびりそうなんで殺気を飛ばすのやめてくださいまじで。
 狼が束になって七松先輩へ反抗しているが、殺気を受けて狼たちは少し怖気づいたようだ。尻尾がくるんと腹の下に丸まってしまっている。かわいそうに。同じ空間で、そんな間近で七松先輩の怒りにさらされるとは。

 そんなさなか、生肉を放り投げて、七松先輩は狼に変身した。

 明るい雰囲気をまとったのはみょうじ先輩のみで、学園の狼たちはさらに尻尾を丸めた。

「小平太さん!」
「ぅわん!」
「触らせて下さい!」

 くふんと鼻を一回鳴らすと、みょうじ先輩はお座りをした七松先輩に抱きついた。
 頭を撫でくり回し、耳の後ろをこすり、顎の下をさすり、背中を何度もみょうじ先輩の手が往復する。満足そうに鼻をふんと鳴らした七松先輩は、学園の狼に対して優越感を抱いたようだ。「私のなまえなんだぞどうだ羨ましいか」といった意味合いを持ってそうだあの目は。
 学園の狼も負けてはいなかった。数の力だろうか、気持ちが大きくなっているみたいだ。みょうじ先輩に頭をすりよせると、それに気付いた先輩は七松先輩から手を離して両手で学園の狼を撫で始めた。
 そこからは七松先輩が唸り出したので七松先輩を両手で撫でる、学園の狼が擦り寄るので撫でる、七松先輩が唸る、の繰り返しだった。みょうじ先輩が超忙しそう。

 最終的にしびれを切らした七松先輩(狼バージョン)がみょうじ先輩の服を咥え、飼育小屋を後にしていくこととなった。

 この後の夕食で、七松先輩はとてもご機嫌だった。対してみょうじ先輩が疲労困憊の様子だったんだが、存分に撫でまわしてもらったか、はたまた撫でまわさせてもらったか。なあ三郎、どっちだと思う?


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