小説 | ナノ


  しま○ら3


 学校から自転車で20分くらいのところに一番近いしまむらがある。ユニクロの方が学校から近いが、平日だし、安くなってないし、ということで今日はしまむらだ。
 私、仙蔵、文次郎、長次が自転車だったので、交通規制にやいやいうるさい文次郎以外の6人で二人乗りすることにした。警察に見つかっては事なので、見つからないよう細心の注意を払いしまむらまで疾走した。
 ちなみに小平太と私、仙蔵の自転車を借りた留三郎と伊作、長次と仙蔵のペアである。

 自転車に乗っている時から鼻歌をふんふん言わせ、小平太はご機嫌だった。自転車をすいすいと漕いで行く小平太に、重くないかと一応聞いてみたが、軽いから問題ないと言われた。やだ、男前。

 入店してからも小平太はウキウキとご機嫌であり、むしろパワーアップした。らんらんと目が輝いているので、そんなに買いたいものあったんだ、と思って小平太の視線の先を辿るとなんか違うところを見てた。メンズものではなく、レディースの、ずらっと並んだ、下着。

「……小平太?」
「おう!」
「ぱんつ買うんだよね?」
「ああ!なまえのやつ!ちゃんとチラシ見てきたからな!」

 入口付近のかばんを見ていたが、全員小平太の言葉を耳に入れた瞬間ささーっとどこかへ行ってしまった。
 私も逃げたい。


 下着屋さんで買うのでここでは買わない、どうしてだと言われてもしまむら製は買った事があるがすぐにダメになってしまうからで…。と切々と説明したのち、小平太は、自分のぱんつを選んでくれ!と提示してきたのでそれを条件に私のブラジャーとパンツから手を引いてもらった。

「色は何がいいの?」
「なんでも!あ、でも今持ってるピンクはあんまり好きじゃない」
「そう?可愛いと思うけど。それにしても2枚で580円かー。安いねえ」
「……上下で1060円だって」
「安いけど要らない」

 背後の女性下着を取ってから値段を確認すると、小平太は親切にも教えてくれた。
いつも買うものに比べて1/3以下の価格だが、その分ヘタるのは早いだろう。既に経験済みだ。
 目の前に広がる色とりどりな男性下着の中で、これいいなと思ったものを次々と手にとってみる。小平太の意識は私の手に収まった男性下着より女性下着のようでこちらを見ていない。咎めるように名前を呼んでみるとようやくこちらを向いた。

「もー」
「すまんすまん」
「これとかど?」
「なんでそんなにピンク推しなんだ」
「小平太にピンク、可愛いかなと思って」
「青とか緑とかそういうのがいい!」
「はーい」

 あまりイメージの無いピンク色で攻めていたのだが、小平太は寒色の方が好きなようなので選択をシフトチェンジする。形としては、トランクスよりボクサーパンツの方が個人的に好きなので、寒色を配したボクサーパンツを取っては小平太にあてがう。
 ボクサーパンツを腰にあてると何かとポーズを取ろうとするので、私がくすくす笑っていると小平太は気分を良くしたらしい。私の手からボクサーパンツを取ると適当に棚に戻し、空いた手に小平太がすり寄った。猫や犬がマーキングするみたいな、あんな感じで、ふわふわした髪の毛がくすぐったい。

「撫でてほしいの?」
「ん」
「ふふ、かわいいね」
「私はいつでも可愛い!いや、やっぱりかっこいい!」
「はいはい」

 髪の毛をぐしゃぐしゃにする感じで撫でてから、梳くように髪の毛を撫でつけた。するとみるみるうちに甘えるように目は細められていき、いよいよ閉じてしまう。
 何とも言えないきゅんきゅんした気持ちを抱えながらするすると撫でていると、いきなりカッと小平太の目が開いた。ホラー映画観賞中に、わっとおどかされた時くらいびっくりしたが、後ろから聞こえてきたのはのんきな留三郎と伊作の声だ。どうやら下着を見に来たらしい。
 あたりの品物を冷やかしながらこちらにやってくる2人は私たちの存在に気がついた。

「よう小平太」
「やっほーなまえ」
「うん。2人とも、大量だね」
「だってさ、靴下3足380円だよ!」
「Tシャツとか500円でさ、思わず2人で店員とお客さんごっこしたわ」
「お客様そちらの色すっごくお似合いですぅ〜」
「あ、ほんとですか?」
「今の時期やっぱり無難な色とか選びがちですけど、お客様がお選びになったそちら、ぱっと明るいですし、形もですね、合わせやすい形だと思いますぅ〜」
「みたいな」
「さすがは組ね!」
「私もよくやるぞ!」

 2人の両手には様々な服があった。プリントTやポロシャツ、ハーフパンツ、靴下などなど。それらを駆使してささっと小芝居を始めちゃうあたりこの2人はは組だな、と実感する。
 手に持つ服の量からして、カゴを使えばいいのに、とすすめてみるが、おばちゃんスタイルになるから嫌だ、と断られてしまった。男の子の考えることはよくわからないことが多いが、カゴに関しては分からないこともない。しかしおばちゃんスタイルは持ち方の問題だろうと思う。

 少し話がそれるが留三郎と伊作も運動部なので、腕まくりをしたシャツから覗いている、腕の筋肉は素晴らしい。部活中はハーフパンツタイプのジャージや体操着を着ることが多いみんなの足も、腓腹筋(ふくらはぎの筋肉)や大腿四頭筋(ふともも上側)がまじ素敵。去年みんなで海に行った時(さらに留三郎や仙蔵、小平太達バレー部に関しては着替え中にうっかりドアを開けたこともあるのでその時)に拝んだ上半身は、だっ、抱いて!と言いたくなるようなまぶしいお身体でした。
 そしてその拝ませていただいた上半身、そして留三郎のイメージとして連想されるパンツはボクサーしかない。

「……留三郎にはボクサーパンツをぜひともはいてほしい」
「お?おう、じゃあボクサー買うわ」
「なまえ!私のも!私のも!」
「小平太のはもう選んだじゃない」
「じゃあ服!」
「着てほしいな―と思うもの選ぶよ?」
「うん!」
「犬だ」
「犬だね」

 は組2人とは後で、と分かれた後にレディース服コーナーで合わせやすそうなショートパンツと薄手のカーディガンを手に入れる。小平太から着てほしいと渡されたデニムシャツとともにカゴへ放り込んだ。カゴの中には小平太のパンツも入っているため、カゴは小平太が持ってくれた。

 メンズコーナーに着いてみると、仙蔵と長次はお互いに選んだ服を体に合わせて鏡で確認しているところだった。もう少し明るいものでもいいんじゃないかと言って違うものを差し出す仙蔵の言葉に、長次はこくりと頷いて受け取った。

「うむ、やはり明るいのもいいな。そうは思わんかお前ら」
「似合ってるぞ!」
「長次は背高いしスタイルいいから何でも合うよね」
「……ありがとう」

 そばに置いてあったカゴを見てみるとシンプルなデザインのばかりで、仙蔵と長次らしい服選びであると思う。

「あれ、文次郎は?」
「あいつなら向こうでどの色にするか悩んでいたぞ」
「まだ、悩んでいるみたいだ」

 長次の指差した方向にどうやら文次郎がいるようで「本当だ悩んでるな」「カーゴパンツの次はおじさんみたいなポロシャツ選びか」「…こっちへくるぞ」などとコメントするのは仙蔵と小平太、長次である。私はと言うと棚によって視界が阻まれているのでいまいち分かりかねた。長次が言うに、みんなの視線に気付いた文次郎が、渋めのポロシャツ2着を持ってこちらへやってくるようだ。

「なあ、これどっちがいいと思う」
「どっちもない」
「むこうのマネキンが着てるやつは?」
「……こちらはどうだ」
「これとかいいんじゃない?ドット可愛いよ」
「お前、文次郎にドットが似合うと思うのか」
「ドット好きな女子多いもん」
「それは知っているさ。この間クラスの女子に力説されたからな」
「結局どれがいいんだよお前ら……」
「とりあえずその、手にしている2着はない」
「うちの親父がそんなん着てたな!」

 仙蔵と小平太が文次郎の持っているポロシャツをこきおろしたので、文次郎はポロシャツを戻しに行った。
 興味が別のものに移った仙蔵とは逆に、文次郎を見送っていた小平太が笑いだした。なんぞやと思った仙蔵と長次も小平太の視線の先を見て笑いだす。どうしたのかとみなに問うと、答えはこう返って来た。

「あいつ、父の日コーナーからポロシャツ持ってきてた」

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