小説 | ナノ


  しま○ら1


 ユニクロ。しまむら。お金のない学生にとって、これほどの味方はいない。
しまむらといえば女性のファッションが先行しがちだが、意外とメンズものも取りそろえられているのだ。
 新聞の間によく挟まっているチラシで目立つのはユニクロだが、平日は特に安いということはなく、そこらへんのアウトレットに行けば似たようなものを同じくらいの値段で買える。ユニクロの魅力といえばやはり休日祝日になると値段が安くなることであろう。

 土曜の朝になると、チラシを見て興奮したのであろう小平太から一斉送信でユニクロ行くぞ的なメールが送られてくる。
「今日 15時 ユニクロ 全員」だの「くぁdjfkhgwuふじこbwkfjb」「ごめんまちがえたユニクロ行くぞ!」だの毎回毎回受信者を飽きさせないメールなのだが、なにぶん送られてくる時間が早い。月曜から金曜までは学校があるし、朝練もあるし、みんな朝6時には大体起きていると聞いてはいる。私もそうだ。だが土曜日くらいちょっとお寝坊しよう、という輩は学生の中では決して小数派じゃないはずだ。小平太が早すぎるんだ。朝5時ってお前はおじいちゃんか。

 そして今日は平日だというのに朝も早い時間に一斉送信で「しまむら行くぞ!」のメールが送られてきた。しまむらって…まあ朝練の時に言えばいいかと思って特に返信はせず出かける準備をし、弁当を詰めた。
 眠い目をこすりながら自転車をのろのろ漕いでいると、誰かが走ってくる音が聞こえ、後ろから肩をたたかれる。のろのろ漕ぎとはいっても自転車の速度に追いつくほど元気よく走るのは奴しかおるまい。振り向いてみるとやはり小平太だ。紺色の薄手のカーディガンを着ていて、腕まくりをしているためがっしりとした腕がお目見えしている。ごちそうさまです。

「よっ!おはよー!」
「おはよー朝から元気だねぇ」
「私が漕ぐから荷物乗せてくれ」
「はいはい」

 荷台に乗っているだけで学校へと行けるのなら喜んで自転車を譲りますよ私は。
おそらく自宅からここまで走って来たのだろうけど、小平太は息が切れていることもなければ汗をかいていることもない。荷台に乗って肩に手を置こうとすると腰に手を回すようがしっと腕を掴まれた。腰に巻きつくように手を回すと、いつも通り暖かくて、運動をした後のような発熱は感じられない。さすがは小平太。
 安定感のある漕ぎ方なのでバランスを取らなければならない心配もなく、安心して小平太にぎゅっとくっつく。6月とはいえ朝はまだ涼しいので小平太の暖かさは嬉しい限りである。

「朝さー」
「ん?」
「しまむら行くってメールしてきたじゃない」
「おう!」
「今日部活じゃない」
「そうだな!今日もいつも通りいけいけどんどーんでアタックするぞー!」
「しまむらって19時までなのね」
「うん?」
「部活は申請済みだから19時までよね」
「……」
「今日、行けないよねしまむら」
「は、」
「は?」
「早く終わろう!部活!」
「いいけど仙蔵がなんて言うか」




「いいぞ」
「わーい!しまむらー!」
「いいんだ」
「特に重要な試合もないしな。」
「しっまむらー!」

 小平太の漕ぐ自転車に揺られて体育館まで来てみるとちょうど鍵を開けている仙蔵と出くわした。しまむらの閉店時間と放課後の部活の件について聞いてみると、すんなりとOKが出たのだがそれでいいのか部長。
 体育館に一礼して入ると初夏ではあるがひんやりとした空気が私を包んだ。寒さに少し肌が粟立つ。勉強道具が入ったスクールバッグを入口付近において、器具出しに行こうとした私の肩にふわりと暖かいものがかけられた。紺色のカーディガンだ。

「持っといて!」

 にかっと笑って小平太にそう言われた。
 いっつもいけいけどんどんなくせに!たまにこういうことするから!キュンとするんだと!
 もんもんしながらカーディガンの合わせをぎゅっと握り、小平太から顔を逸らすのと同時にバッと仙蔵へ振り向くと、はいはい分かった分かった、みたいな表情を向けられる。これがタカ丸さんならにっこり笑って「分かるよ〜」とか言ってくれるのに。

「私っ、ボール籠取ってきます!」
「おう!頼んだ!」

 やはりにかっとした笑顔が私に向けられてしまったので、心臓を押さえながら用具倉庫へと向かった。
 背後で留三郎や後輩の声がするので、続々と部員が登校してきているようだ。天気予報では今日は25℃まで上がると言っていたので、朝の涼しい時間ではあるが、ある程度飲み物を用意しておこう。放課後はどれくらい必要になるかなあ。
 本日の予定を考えつつ、カーディガンのボタンを留めていった。

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