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  もふ×6


 
 ぽかぽか陽気の中ゆっくりと目を開けますと、茂みに囲まれた場所にいることが理解出来ます。頭に感じる、ふわっとした感触を不思議に思い起き上がってみると、狼さんが丸まって眠っていました。私は狼さんのお腹を枕にして寝ていたようです。手のひらで狼さんのお腹をそっともふもふしていると、丸まっていた狼さんはゆっくりゆっくり体を伸ばしていったのです。えへへ、かわいい。
 この狼さんを飼いたいなあと思いますが、私だけではこの狼さんのご飯も用意出来ませんし、小屋もありません。わんちゃんみたいに杭に繋げるわけにもいきませんし、このふわふわな狼さんを野ざらしにもできません。私の部屋に入れていてもいいのですが、シナ先生に知られてしまった時どのようなお咎めがあるでしょうか。もしそれをきっかけに退学なんてことになったら忍術学園に入れてくれた両親に申し訳が立ちません。もしくはシナ先生に許可をもらえばあるいは……?と考えたところでおばちゃんのお手伝いを思い出しましてざっと血の気が引く思いがいたしました。

 お、お夕飯の……!お手伝い……!!

 立ち上がって空の色を確認すると、眠り込んでしまった時よりもいささか日が落ちてはおりますが急いで向かえばまだ間に合う時間であろうと思います。狼さんが気持ちよさそうに寝ているので名残惜しいのですが、おばちゃんに迷惑をかけるわけにはいきません。とりあえず狼さんのあらわになっているお腹をわしゃわしゃわしゃー!と撫でくり回させていただきました。お腹のふわふわ感に触れることでほこほことした気持ちにさせてもらいましたので、お礼として今日採って来たお花を懐から取り出し、狼さんの耳元に飾りました。ちまちまとしたお花が狼さんのもふっとした毛に埋もれてしまったので少し笑ってしまいました。紫色のお花は、狼さんにぴったりお似合いです。お茶として飲むつもりのお花の一部でしたが、このお花は匂いだけでも十分リラックス効果は得られるので狼さんにプレゼントです。

 それにしても、あれだけお腹をもふもふしたのに狼さんはすやすやと寝続けております。息をするたびに上下するお腹はとてもふわふわで、顔を埋めてぐりぐりしたら気持ちが良さそうだなあと思わずにはいられません。最後にもう一回、狼さんのお腹を左右に撫でつけた後、私は縁側に置かれたくのたまの友を自分のお部屋に戻しまして、食堂へと向かいました。



「おばちゃーん、くのたまみょうじなまえ、お手伝いに参りました」
「あらあら!ありがとうねえ。じゃあなまえちゃん、副菜のなますのね、お野菜の皮むきがまだなのよ。お願いしていいかしら」
「お任せ下さい!」
「後はおみそ汁も作ってもらいたいの。忍たまの子ももうすぐ来ると思うから二人でお願いね」
「はい!」

 どどんと山積みになった大根とにんじんは、なますにされるようです。傍らにころりと置いてあるゆずもどうやら使われるのでしょう。お野菜を水洗いし、大根とにんじんを5cm幅に切ってゆきます。私の手には大根一本は大きすぎて落としてしまうので、手のひらに収まる大きさにしてから皮をむいていくのです。おばちゃんみたいにするするするーっと一本丸々皮むきが出来ればよいのですが、私には手のひらサイズの大根をむくのが精一杯です。
 せっせとむいては別のざるに放りこみ、にんじんも同様に皮をむいていきます。相当な量をむき終わったところで、私は大きなお鍋を取りだしました。むき終わったこの大根とにんじんを千切りにして、どんどんお鍋へ入れてゆきます。お鍋に白と赤が山盛りになりました。ふう、と一息ついてお塩を貰いにおばちゃんの近くまで行くと、おばちゃんがこちらを振り向きました。

「あらまあ!なまえちゃん一人でよく頑張ったわねえ」
「えへへ……」
「お塩かしら?高いところに置いちゃってるからおばちゃんが取ろうね」
「ありがとうございます」

 戸棚を開いて、おばちゃんがお塩の入れ物を取ってくださいました。引き出しからさじを出して、お鍋へぱらぱらとかけてゆきます。その後は15分ほど置いてから、塩もみ、水切りの過程を経るのですが、その間にゆずの皮を適量みじん切りにして取っておく、半分に切ったゆずを絞って果汁とお酢、お砂糖を混ぜて……と頭の中でするべきことを考えているとおばちゃんが「それにしても……」と話しかけていらっしゃいました。さじでお塩を掬ったまま、私はおばちゃんを振り返ります。

「忍たまの子遅いわねえ」
「あ、そうですね、もうお約束のお時間を過ぎてます……」
「何かあったのかしら」
「授業が長引いてらっしゃるとか?」
「お手伝いに来てくれる子は授業に影響されないようになってるのよ」
「あら、じゃあ違いますね……」
「なまえちゃんに負担かかっちゃうけどごめんねえ」
「いえ、私は大丈夫ですよ!」

 お塩をぱらぱらとある程度かけたあと、膨大な量の千切りですので下の方からひっくり返して混ぜ混ぜして、まんべんなくお塩を馴染ませます。全体にお塩が馴染むまで混ぜましたら、このまま15分ほど放置いたします。
 さてゆずの皮をむくぞ、と包丁片手にゆずを持ちあげましたら、食堂の勝手口から黄緑色が飛び込んできました。

「おばちゃんごめん!忍たま七松小平太遅れました!」

 私の手から転げ落ちましたゆずが、大量の紅白なますのてっぺんを飾りました。



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