小説 | ナノ


  スーパーでアイスを買う


 夏の日差しがそろそろ本格的にお出ましであろう6月。女子の制服も夏服へ移行したし、見た目には分かりにくい男子制服も、冬仕様から夏仕様の薄手のズボンになったようだ。風だけでなく光も通しやすくなり、たまに透けるらしい。要らん情報は小平太が面白そうに教えてくれた。
 梅雨の合間のじめっとした晴れの日は、気温がそんなに高くなくともなんとなく蒸し暑い。
 は組の人たちは帰り道とは反対方向ではあるが、「スーパー行こう!んでアイス食おう!」この小平太の一言により売り切れ御免な超お買い得お得プライスが売りのチェーン店スーパーへとホイホイ着いて来たのである。というかは組は家が学校と近すぎて、寄り道をする前に帰宅してしまうらしい。そう考えると近いのも考えものだろ?とか留三郎が言っていたけど、私だったら学校と家は近い方が限りなくいいと思う。主に忘れ物をしたときとかに便利じゃないか。

「なあなあ!仙ちゃんはもうアイス決めたか?」
「ああ。ハーゲンダッツリッチミルク…を文次郎が買ってくる」
「またかよ!お前いい加減てめえで買えよ」
「よいではないか。昼時に美味い和菓子を提供してやっている私にハーゲンダッツくらい安いものだろう」
「そりゃあ貰ってるけどよ、あれはお前んとこの祖母の……」
「売れ残った廃棄品だな」
「美味しいよね!留さんも僕もよくもらうー」
「私もなまえももらってるぞ!」
「……私もだ」
「廃棄品でも美味いんだけどよ…まあいい、俺もグリーンティー食べてえし、ついでに買ってくらぁ」
「かばんを寄越せ。さっさと行ってこい。私はここに座っておこう。」

 そう言うと文次郎からかばんをひったくって椅子に置き、勝手に中を漁ってから、仙蔵は文次郎の財布を取り出す。
 さらに向かいの椅子にどっしりと深く腰を据え、自分のかばんから短編集の文庫を出したあたり、自分で買い物に行く気はさらさらないんだなと思った。中でも文次郎はそれでいいのか。
 各々かばんを置いて財布だけ手に持つ。長次の財布は落ち着いていてかっこいいし、留三郎はシックな黒の長財布、伊作は財布落としたー!の不運回避のため小銭入れだ。小平太は…今日財布を家に忘れたようなので割愛。私がお金を出すことになるだろう。

「んじゃ行ってくるな!荷物よろしく仙ちゃん!」
「ああ」
「行くぞみんなー!」
「おー!」

 掛け声に乗らなかったのは文次郎だけだった。


 店内専用のカゴを私が持ち、ブラブラと冷凍食品コーナーへ向かう。
 小平太は肉売り場へ行ってしまうし、文次郎は混ぜ込みおむすびの素やふりかけ売り場にふらっと吸い寄せられていくし、長次は長次でお茶っ葉コーナーで足を止めるし、は組の2人は安売りカップラーメンコーナーで足を止めておおはしゃぎしている。こいつら本当に自由すぎるだろう。仙蔵が着いてこなかった理由の一つはまちがいなくこれだ。なまじ散り散りになるのが気になっちゃうだけにこの状況は見捨てがたいのである。それならその現場を視界に入れなければいいのだ。

「ほらー行くよー」
「なまえ!見てくれなまえ!これ美味しそう!」
「小平太ママさんがちゃんと晩ご飯作ってるでしょ」
「……そうだった」

 ステーキ用の肉を元の位置に戻させ腕を引くが、納得した様子を見せているものの肉に未練があるらしく歩みは遅かった。他の人たちは放っておく。大きな子供一人で私は手一杯だからだ。後で来るだろうと見切りをつけてアイスのある冷凍庫まで着いたが、小平太は早々にガリガリ君の前に行ってしまった。
 どのアイスにしようか冷凍庫を覗き込みながら迷っていると、各自興味のある売り場で足を止めていた全員が、お目当てのアイスをすぐに手にした。私の持つかごに続々アイスが入れられていく。長次はみぞれカップ、は組はパピコブドウ味、文次郎はおつかいのハーゲンダッツリッチミルクと自分のであろうグリーンティー。みんなが選んだアイスと売り場のアイスを見比べながら優柔不断を遺憾なく発揮していると、小平太が顔のすぐ横にアイスを掲げていた。

「これにした!」
「ガリガリ君とスーパーカップクッキー&バニラ?いいけど小平太2個も食べるの?」
「ガリガリ君が私の。こっちはなまえの」
「ああなるほど。じゃあみんなアイス入れたね?仙蔵のダッツも入れたね?」
「レジ行くぞー!」
「おー!」

 またも文次郎は掛け声に乗らなかった。


「遅かったな。短編4話は読んだぞ」
「なまえが悩んでたから」
「すみませんでした」
「はいはいそれぞれアイスとってー。はいこれ留さん開けてね」
「おう」
「木のスプーンかー」
「ダッツは専用のスプーンだな」
「私そっちがいい!もんじ取り替えて!」
「お前はガリガリ君だろうが!」
「お前らやかましい。伊作、不運回避か?」
「なんでだろうねー。最近のパピコって昔に比べて二つに分けやすくなったでしょ?それでも僕が開けるとごそっと片方持ってかれちゃうんだよね!」
「不運というか神業だろ」
「逆にすごいないさっくんは!、ん」
「最初開けた時は留さんが食べる分しか残らなくてさ、下の方から開いちゃって僕の分全部地面に落ちたんだ。それでとりあえず開けたらこうなりました、ってことで改善した方がいいですよーってことで、容器をね、パピコ作ってる会社に送ったんだ」
「お客様相談センターみたいなとこな。そしたらさ、最初の方の1〜2回はクール便でパピコとかくれたんだけどそれ以降音沙汰なし」
「さすがに立て続けに送ってたからねー」
「怒ったんだろうなー」

 パピコと伊作にまつわる一連をは組が話してくれたが、たちの悪いクレーマーとして処理されたんだと思うとは言えなかった。至極真面目にしたことだろうから余計に皆口を噤んでしまった。小平太だけは順調にアイスを食べ進めてなんと既に食べおわった。カーディガンを引っ張ってはせがんでくるので、私のアイスを掬っては口に運んでたけど、さっきまで食べていたソーダ味とクッキー&クリーム味は果たして合うのだろうか。

「そういえば仙蔵のとこ予算もう計上した?」
「ああ、済ませたさ」
「早いな!うちはまだだ!もぐ」
「来週までだろう?まだ時間はあるさ」
「そうは言っても小平太適当にしちゃうから手直しの時間含めるとそろそろ出してほしいよね。はい、あー」
「ん!じゃあ解散した後考えるか?」
「そうだね。小平太んちでいい?」
「おう!んむ」
「そう言えば文次郎」
「あ?」
「返却はお早めに。次は私が予約してるのよ」
「そうか、すまん」
「長次も怒っちゃうよ」
「……もそ……」
「!すすすまん明日返す!!」
「あー、垂れちゃった。自分で舐めてね」
「ん!んぐんぐ」
「……小平太」
「ん?なに長次」
「……食い過ぎだ」
「え?あ!ごめんなまえ!」
「え?あらまあ」

 長次に指摘されるまでお互い全く気にしていなかったがガリガリ君だけでなくスーパーカップまでも、小平太の腹に収まっていた。ついつい欲しがるままに小平太の口へ放り込んでいたが、ペースが速かったためいつの間にやらスーパーカップは半分以下。さようなら98円…。
 話している途中に味に飽きられたリッチミルクは既に文次郎の手に渡っていて、代わりにグリーンティーは仙蔵の手に収まっている。仙蔵のわがままを受け入れている文次郎は、今までの付き合いの中でやいやい言うことを諦めたんだろう。グリーンティーを奪われた時何か言いかけたがリッチミルクとともに言葉を飲み込んでいたのだ。仕方ねえと言わんばかりの表情はさながら子持ちの父親のようだった。
 留三郎の委員会の話(「こないだの委員会でちょっと失敗した後輩がくそかわいくて!」「捕まらないようにね」「まだ大丈夫だ」「留さんそこは否定しようよ!」「いやだって本当のこと…だろ…?へへっ」「重症」)を、私は半分以下のスーパーカップをおともに聞いていたが、仙蔵と文次郎と長次は特に興味がないようだ。彼らはなにやら小難しい数学の課題に取り掛かりだしていた。
 ふと横を向くと小平太がじっと私の手元を見つめている。まだ欲しかったのと思いアイスをのせたスプーンを口まで持っていくと、シャッとスプーンを奪われてしまった。なんと素早い。残像が見えそうだ…とは言い過ぎたが奪ったスプーンを持ち直した小平太はそれをこちらへと向けてきた。素晴らしくかわいらしい笑顔だがその手には乗らない、というか乗りたくない。あーんと見せかけて木のスプーンを喉仏まで突き刺されそうで、前科一犯だから余計に怖いです小平太さん。
 口を開くことを躊躇っていると、スプーンを持っていない方の手でほっぺたをするすると撫でたあと首をなぞり上げられた。これなんて羞恥プレイ?

「っひぁっむぐう」
「口を開けないからだぞ!」
「もごもご」
「うまいか?私はうまかったぞ!」
「もごもご」
「ん?聞こえないぞ」
「……そのままでは喋られないだろう……」
「あそっか」

 長次の進言によりスッと木のスプーンはすぐに私の口から引き抜かれる。小平太は新たにアイスを掬うと、ぱくっと自分の口へと運んだ。

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