小説 | ナノ


  nばんめ


 門などを通るのかと思いきや塀をひょいと飛び越えてしまった。私を抱えて身長以上の高さを飛び越えてしまうなどやはり忍者はんぱない。すたんと音もなく着地するとそのままダーッと走っていく。その道中、様々な色をまとった少年たちの衆人環視にさらされるわけだが小平太くんは周囲の疑問には答えることはなく「いけいけどんどーん!」とだけ言葉を残していった。
 あの七松先輩が女性を連れている!?とか、きちんと抱きかかえているなんて……!とか不安になることばかりが聞こえてきたのだが大丈夫か小平太くん。私心配になってきたよ。早く下ろしてもらいたいので声をかけるが、またぴろんぴろん好感度上がったりしないだろうか。

「あの、小平太くん……」
「ん?何だ?」
「どちらへ行っているのでしょう……?」
「学園長先生のところ!」
「がくえんちょうせんせい……」

 好感度は上がらなかった。ちょっと残念。


 ししおどしがカッコーンと良い音を立てている。菖蒲がまっすぐ茎をのばし鮮やかな色を呈している静かな庵。こちらが学園長先生の、忍術学園権力者のお部屋……荘厳な雰囲気である。閑静な様子に知らず体に力が入っていたようで、小平太くんはそれを察してか私を腕からおろすと背中をさすってくれた。

「大丈夫だぞ、なまえちゃん。私がついているからな!」
「……うん」

 まぶしい笑顔でそう言われてしまえば、気持ちも軽くなるし自然と私の表情も緩もうものだ。にへ、と笑った私をまん丸な目で凝視したのち、小平太くんもにぱっと笑った。それと同時に鳴り響くあの音。

 ――ぴろーん
 ――好感度が上昇しました

 90になったよおい。一体上限はどこなんだろう。もしや100?そうだとしたらあと10で達成してしまうが、小平太くんとは出会ってまだ一時間も経っていないのに既に好感度90。ここまで好いてくれると嬉しいものがあるが、好意にはやはり好意で返したい。この異世界において、私が頼れるのは目の前の彼くらいで、好意を示してくれているうちは信じてもいいはず。す、捨てないでね小平太くん……!

 襖の前に膝をつき、小平太くんは私を手招くと座るよう指示をした。私も膝をつくべきかしらと思うも、着物なのでそれは難しい。正座で座ってみるとこれでオーケーだったようで、にぱっと笑って頭をよしよししてくれた。私のことを何歳だと思って……もっとやってください。
 撫でる手にすり寄ると、小平太くんは撫でる手を離した。おやと思い見上げてみると真っ赤に顔を染め上げていて、ふたたびあの音である。

 ――ぴろーん
 ――好感度が上昇しました
 ――項目を追加しました

 好感度が95の値を示した。な、なんという。
 吹き出しで確認できる情報としては所属、名前、好感度だけであったのが、「状態」という項目が追加された。状態って何よ。よくよく見てみても、小平太くんの吹き出しは以下の通りであった。

 忍術学園六年ろ組
 七松小平太 15歳
 好感度:95
 状 態:

 何も書いてないのだ。もしや吹き出しと同じ色で文字を書いているのではないかと考えたが、同じ色にする理由も思いつかないのでとりあえずは後で考えようと思う。今は学園長先生にお目にかかることが優先だ。
 小平太くんは硬直から立ち直ると頭を軽くふって襖へと声をかけた。

「学園長先生。六年ろ組、七松小平太任務から戻りました。ご報告に参りましたことと、お願いしたいことがございます」
「うむ、入りなさい」
「失礼いたします」

 威厳のあるお声が中からかかる。小平太くんは襖を音もなくスッと開けると中へ入るよう私を促した。然程広くない庵の中には、黒をまとった大人が数名と、紺に身を包んだぼさぼさ頭の少年、中央にはおじいさんが座っていた。
 あまり歓迎の意は無いようだ。黒服の大人の人の目つきは厳しいしなんか雰囲気がちくちくしている。こんななかでもにこにこしているのはおじいさんと小平太くんくらいで、不安げに小平太くんを見上げてもニコニコした笑顔を返されるだけだった。背を押され、真ん中に座らされる。小平太くんはすぐ横に座ってくれているので服をきゅっと握ってみても不安しかない。

「任務は無事成功いたしました。脅威は去ったことと思います」
「うむ」
「学園の日常が戻って来たことでしょう。さて、お願いしたいことの本題ですが、彼女を忍術学園で保護していただきたいと思います」

 黒い服の人がすごい怖い顔してるよ小平太くん……。
 

prev / next

[ back to top ]


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -