小説 | ナノ


  うれしい


 
「ぼんやりしてどうしたの?」

 波に流されるどころか、大航海に出かけようとしていた私の思考は、彼の声に一気に引き戻される。くりくりのおめめは私を心配そうに見つめていて、さらにその上では深緑色のぽよぽよしていそうな謎の吹き出しが浮かんでいる。吹き出しには次の事が書かれていた。

 忍術学園六年ろ組
 七松小平太 15歳
 好感度:75
 
 ……何これステータス?ゲームとかでしか見たことないわこんなん。吹き出しに視線が釘づけの私であるが、どうやら彼には見えていないようだ。私の視線の先に顔を向けるが彼は首をかしげるにとどまっている。いよいよ心配、といわんばかりの優しげな声で労られてしまった。
 
「ね、大丈夫?学園に帰ったら新野先……は出張だっけ……いさっくんに診てもらう?あ、でもあいつアレだしなあ……。あ、そうだお姉さんの名前は?」
「……みょうじ……なまえ、です」

 ――ぴろーん
 ――好感度が上昇しました

 またも機械音と機械音声。さらにルーレットのようなトゥルルル……ピン!という音も付随している。吹き出しを見ていると好感度の数値が変化していた。
 えっ?名乗っただけで?好感度アップ?と思われたことだろう。私もだ。先程まで75と示されていた好感度は80となっていた。

「なまえちゃんな!私のことは小平太と呼んでくれ!」
「は、はい……小平太くんね……」

 ――ぴろーん
 ――好感度が上昇しました

 またかよ。80だった好感度はさらに増えて85となった。それだけではなく機械音声はさらなる情報を私へと提供してくれた。

 ――好感度が85に達しましたので、七松小平太はPSPに触れることが出来ます
 ――好感度が85に達しましたので、七松小平太には天女の加護が付随します

 PSPってあのPSPだろうか。今現在帯留めとしてきらめいているトンボ玉のこいつであろうか。願えばトンボ玉からPSPになる、ともちもち肌の少年は言っていたが、さわれる・さわれないって一体。天女の加護って一体。ああ……分からないことが多すぎて、分からない。
 謎の吹き出しについてどこから聞けばいい。どこまで話していいんだ。彼は信用に足る人物なのか。このまま連れて行かれて大丈夫なのか。

「なまえちゃん」

 まぜこぜな意識に、なかなか得られない酸素。目の前が真っ白になりかけたその時、彼は立ち止まり強い力でぎゅうと抱きしめてきた。ひい何ごとと思うも、温かさと力強さに言いようもなくほっとした。

「学園でね、いろいろなお話聞くから、今はしーしてて」

 耳元でささやかれる彼の声に安心を覚える。でもちょっとくすぐったい。

 改めて抱きかかえられたので、慌てて首に腕を回した。この人は舗装されていない山道を、ものすごい速さで進んでいく。同じ背丈の女子抱えてこのスピードってどういうことだ。身長ほどの高さがある段差を予備動作なしに飛び降りた時には、ジェットコースターに乗っている時のようなぞわっとした感覚を覚えた。しかも着地音がドンッとかじゃなく、トサッみたいな軽い音しかしなかったのでこの人は本当に忍者なのだと思わざるを得ない。揺さぶられたり、彼の腕が下がったり上がったりといった動きが少なくて、私にかかる負担は無いと言っていいほど快適なお姫様だっこである。がっちりと腕が固まっているのではと思うほどブレがなく安定していた。しかしいかんせん長いこと抱きあげられているので、彼の腕の負担になるのではと思い、途中からはずっと首にかじりつくように抱きついていた。


「見えたぞ、忍術学園だ」

 静かな彼の声に視線を上げてみると、手前には塀が、奥には鐘をつった高い塔と色々な建物が目に飛び込んできた。
 あれが、この人の恐ろしい身体能力を作り上げた学校か。
 
 

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