小説 | ナノ


  もふふふ



 裏裏山から学園までの間、いつもならば小さな動物さん達と戯れながら帰ることが多いのですが、今日は私が狼さんとご一緒しているせいか全くお会いしませんでした。また、肉食動物や毒を持った動物なども出て来ることはなく無事に学園までたどり着きました。
 門のところで用務員さんが「大きな狼だね」と笑んだ後に狼さんに触ろうと手を伸ばしましたが、狼さんはそれを嫌がって私のお腹へと突撃してきます。用務員さんは「おやおや。なまえちゃんに懐いているんだね」と微笑ましそうに狼さんと、狼さんに押し倒されそうな私を見ていらっしゃいました。

 医務室に薬草の詰まった籠を持って行きがてら、狼さんをもふもふと触りつつ生物委員会がお世話をしている飼育小屋まで向かいます。道中誰に会うことも無く飼育小屋まで到着いたしました。小屋の中を窺ってみるとひとつ下の忍たま、竹谷君がお掃除をしているようでした。ニワトリさんの小屋らしく、小屋の入口にはニワトリさん達の名前が書かれたヒヨコの形をしたプレートが掲げられております。小屋に隣接してある、柵で覆われた広場には丸々としたニワトリが放されており、コッコッコッコッと地面をついばんでおりました。
 私はハッと狼さんを振り返りました。狼さんに動く物体を、しかもニワトリなんて美味しそうなものを見せてしまってはニワトリさんが危ない……!と、そう思ったのですが狼さんはニワトリさんを全く見ておらず、しゃがんで距離の近くなった私の匂いを嗅ぐことに一生懸命のようでした。私の視界は狼さんの毛並みでいっぱいです。嗅ぐのは頭巾をかぶった頭だけではありません。狼さんは特に首がお気に入りのようで、ふんすふんすと鼻息荒く嗅いでは舐めて嗅いでは舐めてを繰り返しておりました。

「ひあっ」

 いくらか慣れたと思っておりましたが、生温かい舌が背中に近いところを通りまして、私はびっくりしたものですから思わず声を上げてしまいました。
 その声でこちらに気付いた竹谷君は二年生らしい、かわいらしい声で私の名前を呼んでくれました。しかし私のすぐ近くに狼がいると分かるとすぐさまこちらへ走って来てくれました。どうやら脱走……散歩に勝手に出たのかと思ったようです。

「ねえねえ竹谷君、私さっき森でこの子と会ったんだけどね」
「あ、あの……」
「もしかしてこの子、学園の子だったりするのかな?会うなりすごく懐かれちゃって」
「えと……」
「もしかしたら私からおばちゃんのご飯の匂いでもするのかもしれないわ」
「かもしれないですね……」

 キレの悪い返事の竹谷君を不思議に思いながら立ちあがるも、狼さんは依然として尻尾をちぎれんばかりに振り続けたまま私へ鼻を押し付けてくるのです。ぐいぐい押してくるものですから私は腰から柵に押しつけられるような体勢です。「ちょ、ダメですって」「ななっ……せんっ……なんて呼べばいいんだ……!」もにょもにょと喋りながら竹谷君が狼さんに対して静止を込めた声かけをしてくれますが、狼さんは気に介さず突進してきます。
 お腹をぐいぐい押していた狼さんでしたが位置が少し下がり、今度は足の間にお鼻を割り込ませてきたので私は慌てました。



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