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  もふふ


 しゃがんだ私の、短い足の間に割り込んできた狼さんはおめめがまんまるでした。お月さまというか……太陽のようなまんまるおめめ。木々の間をすり抜けて届いた日差しを受け、狼さんのおめめはきらきらと光っていました。
 怖くないのかもしれない。
 私はそんな気持ちで狼さんの鼻先に手をかざしてみました。何も持っていないことをアピールするため表、裏と返してさらに表を向けます。すると狼さんは私の手にぐいぐいと鼻をこすり付けました。湿った鼻は柔らかく、ぷにぷにしています。少しばかり気の大きくなった私は、今度は両手を持ちあげて抱きついてみようと試みました。ですが両手をあげきったと同時に狼さんが突っ込んできたので、押し倒されるかと思い少し怖うございました。
 私の肩に顎をのせて大人しく……というにはあまりにも私の首筋へぐりぐりと頭をこすりつけられておりましたが、野生の狼さんにしては大人しく立っておりました。

「……おすわり」

 生物委員会の狼さん達のことを思い出した私が、興味本位で言った言葉ではありましたが狼さんは目の前ですちゃっと綺麗なおすわりを見せてくれました。どこぞで飼われて……?もしや忍の獣遁……?

「……狼さんどこの子?」
「わふっ」
「飼い主さんは?」
「くふん」
「いないの?」
「わん!」

 意思疎通が図れそうな動きと返事を返す狼さんに私は、もしかしたらこの子は学園の狼かもしれないと思い始めておりました。ここは裏裏山だし、体育委員会もマラソンで通るくらいだもの、学園の狼が脱走、いえ、散歩をするのだってありえなくはないわ。
 そうと思ってしまえば恐怖心など薄れに薄れ、単純なものですが、間近に座りしっぽを振りまくっているこの目の前の狼さんが可愛く思えてきたのです。
 よっこいしょと掛け声とともに立ちあがると狼さんの目線は私のお尻辺りまでしかありませんでした。お山のように大きいものと思っていた狼さんでしたが、私が立ってみると然程背は高くはないのです。毛並みがもふもふとしているので体が大きく見えたようでした。顎から胸にかけての毛並みは、とても素晴らしくそして気持ちが良さそうでふわっふわです。先よりも、もう少し気が大きくなった私は思い切って狼さんの首へ抱きつきました。
 狼さんはびくっと大きく跳ねましたが受け入れてくれたようでした。視界に映る狼さんのしっぽは大きく早く、右に左にと揺れていたのです。
 学園で飼育されている狼といえど、裏裏山まで来ているとあって毛並みが乱れているのかと思いきやつやつやでふわふわで、もふもふしておりました。頬で胸と首の毛を、手で体側の毛を、思う存分もふもふさせてもらった後に狼さんの顔を両手で挟みました。

「狼さん、ふわふわね」

 毛並みがあまりにも気持ちが良かったもので思わずゆるんでしまった顔のまま、狼さんのおでこをぐりぐりすると狼さんからはわんちゃんのような元気な声が返ってきました。


 薬草の詰まった籠を背負い直し、学園へと戻ります。行きと違う点と言えばチャッチャッチャッと爪を鳴らす狼さんが、私の隣を歩いていることでございます。

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