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  授業中



 教室の外ではまぶしい水色の空が広がり、裏山にかかる入道雲はもこもことしていてアルパカの毛のようで、羊毛のようで、触ることが出来たら気持ちいいだろうなあと思う。夏の様相はとても濃く、窓の外、曇りの予報は大きく外れて快晴となっていた。期末のテスト週間がもう間もなくという時期であるので、私のクラスでは授業に対して真面目に取り組む生徒ばかりである。私の前に座る小平太以外は。皆それはもう真面目にノートを取ったり、予習をしてきた内容と先生の解説を照らし合わせたりしているのだ。しかし小平太は手持無沙汰に足をぶらぶら、ポケットからこっそりお菓子をつまむ、難しいペン回しに挑戦するなど、全く集中していない。そしてそれを目にしてしまった私も全く授業に集中出来ていなかった。
 ちゃんと授業を聴いて勉強しないと仙蔵が怖いと言うのに小平太ときたら。
 あいにくというか残念ながらいまのところ、まだ小平太の所業は先生に見つかっていない。叱られてしまえば良いのにと思うがとりあえず注意しておこうと小平太の背中をつついてやる。声は出さなかったが驚いたようで、その拍子に椅子ががたっと鳴った。なんだなんだと数人が振り返ったが、音を立てたのがいつも騒がしい小平太と分かるとすぐに黒板へ視線を戻す。
 ちょっと振り返った小平太は小さな声で問うてきた。何だじゃない。

「ノートちゃんととってるの?」
「ん?いいや?」
「この授業、テスト終わったらノート提出だよ」
「なに!」
「ばか!しーっ!」
「七松とみょうじ静かにしろよー」
「はーい!」
「はい、すみません……」
「だから……七松、静かにな……」

 怒られたなーなはは、と小平太は笑っているが、注意されることに慣れていない私にとっては衝撃が大きすぎて結構へこむ。ばかやろう!の意味を込めて椅子を軽く蹴ってやると小平太はまた笑った。

「なにすんだ」
「怒られちゃったから腹いせに蹴ってやったの」
「そうカリカリするな」
「赤点とって怒られちゃえばいいのよ」
「先生は怒らんさ。呆れるだろうがな」
「仙蔵によ、おばか」
「でもなまえが教えてくれるだろ?」
「……そりゃあ教えるけど」

 大体いつもはマンツーマンで長次が小平太に教えているが、晩ご飯どきになると時間も遅くなるため長次は帰宅してしまう。その時は七松家に最も近いところに住んでいる私が最後まで小平太の勉強に付き合ってやるのが常である。22時を過ぎると小平太ママが帰宅を促してくるので、そうなると勉強は終了で小平太が家まで送ってくれるのだ。小平太ママは週末であればお風呂を勧めてくれるのだが、その時は昔みたいに一緒に入りなさいなとからかってくることもしばしばである。
 せめてノートだけでもとるんだよと言ってやろうと口を開けた私へ、小平太はポケットから取り出したじゃがりこを放り込んできた。じゅ、授業中にお菓子を食べてしまった……!と再び衝撃を受けると同時に先生に見られていたらまずい、と考えて前を見てみるが、先生はちょうど黒板に書きものをしているところであった。
 口内のお菓子はどうやら形状からしてじゃがりこである。味はたらこバター。音をたてないように、と緊張しながら咀嚼している私の様を前を向いてうずくまりながら小平太はくすくす笑う。むっとして睨みつけ、背中を軽く叩いてやると小平太は楽しそうな笑顔をこちらに向けた。


「すみません長次さん。さっきの時間のノート貸して下さい」
「……ん」
「ごめんね、ありがとう!」
「なまえは真面目だなー」
「ノート提出で少しでも点数稼ぎたいもん」
「小平太はもうちょっと真面目になるべきだ……」
「だよねー!ところでじゃがりこ、どっから出したの?」
「さっきの時間の前に食べてて残ったろ?カップを潰してポケットに入れれば、ほら!見た目にも分からん!」
「おお!」
「……なるほど」
「ほお?先程の時間菓子を食っていたのか小平太」
「わたし頭いいだろ仙ちゃん」
「馬鹿としか言えんわ。小平太、今日のアップお前だけ倍こなせよ」



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